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このような大型の超高速カーフェリーが、欧州や南米等の水域の比較的短距離航路に就航して次々に成功を収めている。この成功の理由は、運賃負担能力の大きい旅客と乗用車をメインターゲットにして、需要ボリュームの大きい短距離航路において、港での停泊時間を最短にし、かつ高速性を生かして航海時間も短縮することにより、きわめて効率のよい運航を達成していることにある。

すなわち、一隻の高速船によって、在来船の二〜三隻分の働きをし、イニシャル・コストの分散や船員数の大幅減少に伴うコストの低下が、非常に大きな燃料費による負担を相殺し、かつその高速性が新しい需要を掘り起こしているのである。

また、大型化による耐航性能の向上は、従来の小型高速船にとっての致命傷ともいえた乗り心地の改善に大きく寄与をしている。さらに高速であることは、トリムタブやフィンによる船体運動の制御効果を非常に大きくし、これを利用したライドコントロール・システムの技術が急速に発展した結果、波の中での船体運動をかなり抑えることが可能となった。

このように、最近の高速旅客船は、海上交通の新しいニーズを急速に開拓しつつあり、斬新な二一世紀の高速海上交通網を築きつつある。

日本においても、こうした新しいシステムの開拓なしには、巨額な公共投資による大規模架橋や海底トンネルなどに対抗できる海上交通システムを構築することは不可能なはずなのに、官民共に意外にその動きは鈍い。ドーバートンネル、欧州統合による船上免税品の販売停止やカボタージュの緩和などの試練に対抗して、新しい海上交通システムを急速に創造しつつあるヨーロッパの現状を調査するたびに、その落差に落胆を禁じえない。

しかし、この十月からは、国内定期旅客船の規制緩和が実施され、平等な競争原理を利用して、利用者にとってよりよい交通システムを作り上げていく体制が実現することになっており、新しい船舶を導入した魅力的なサービスが続々と登場することが期待される。

 

高速船は危険か?

船舶の最大の欠点は、他の交通機関に比べて速度が格段に遅いことであろう。飛行機の一時間が船の一日にあたるから、遠距離の旅客輸送での船の出番はほぼないと断言できる。多量の物を低速で運ぶ上では、エネルギー効率が格段に優れた船舶も、密度の大きい水からの抵抗が大きすぎて高速を出すことは難しい。船を軽くし、大馬力のエンジンを搭載することによって、かろうじて高速が出せているといっても過言ではない。従って、高速船は、まさに、不経済交通機関というレッテルをはられてきたのもいたしかたのないことであった。しかし、この状況が、十年前にオーストラリアにおいて七四メートルウェイブピアサー型の高速カーフェリーが誕生して以来、一気にかわりつつある。大型化し、かつ使い方を間違わなければ、きわめて経済的な船であると認識されつつあるのである。すなわち、比較的短距離航路で、運賃負担能力の大きい旅客と乗用車をメインターゲットにすれば、高速船も十分に採算ベースにのり、新しい需要も創造できることが明らかになってきた。

しかし、海上を高速で走行することにはかなりの危険が付きまとうと考えられている。高速船はどの程度危険なのであろうか。関西国際空港への海上アクセスを検討した検討会では、交通輻輳水域での高速船航行の安全性に関する検討が行われた。

 

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高速カーフェリーの時代のパイオニア 74Mウェイブピアシング型

高速カーフェリーの第1船「ホーバースピード・グレイト・ブリテン」

 

 

 

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