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里山林整備事業は

1) 景観・風景の形成

2) 多様な動植物の保存・保全

3) 環境教育・レクリエーション的利用

の3点を目標としている。この事業ではレクリエーション的利用を進めるため、遊歩道や小広場の整備、案内板、トイレ、樹名板、ベンチ、あずまやなどの設置も行われている。このようなハード面だけでなく、ソフト面としては後で述べるように不十分ではあるが、里山林整備事業地ガイドブックを作成し、一般に配付している(里山の自然を学ぼう−兵庫県の里山探訪ガイド−;兵庫県林務課豊かな森づくり推進室、兵庫県森と緑の公社)。

里山林整備事業の森林整備の指針は、高林化や遷移の抑制などによる景観・風景の形成と種多様性の維持・拡大であるが、その指針に基づいて整備された事業地の追跡調査を行ってみると、いずれの地域もツツジ類の開花が増加するなど景観の改善が進むとともに明らかな種多様性の増加傾向が確認されている。追跡調査の結果は、論文「里山の植生管理による種多様性の増加」(日本造園学会誌、2000年、63;481-484)にまとめることができた。今後も追跡調査を行って、その結果を活用したい。なお、絶滅危惧種が事業地内で多数発見されているが、それらの種についても十分保全対策がなされており、希少種の保全やそれらを用いた環境教育という点でも里山林整備事業は十分な役割を果たしていくように思われる。

本事業における森林整備は事業開始から3カ年間継続するが、その後は地元管理となる。したがって4年目からは市民参加等によって森林整備を持続してゆく必要がある。3カ年の間に大径木の伐採や枯死木の処理など難しい作業は終了し、その後は定期的な下刈り程度なので、地元住民あるいは一般市民の参加によっても十分管理は可能である。里山管理のための初期的あるいは大規模な作業は、行政が主体的に行わない限り不可能であるが、それらの管理後は、ぜひとも市民参加による継続的管理の体制を整えるべきである。そのためには、里山管理のコーディネーターの育成や環境教育の推進などの企画が必要である。三田市内にある里山林整備事業地において、三田市は『里山管理体験教室』を開催しているが、今後の管理に市民参加を呼びかける第一段階としてもたいへん有効である。また、より多くの市民参加を得るためには各事業地の詳細な自然情報を示し、各里山の魅力を明らかにする必要がある。各事業地の特色のある自然を示すだけでなく、ある事業地にいつの時期に訪れるとどのような生物に出会うことができるか、また美しい景観を楽しむためにはどの時期に訪れるのが良いかなどの各種の情報があれば、各事業地の魅力は2倍、3倍となる。現在発行しているガイドブックは、事業地全体がのせられておらずガイドとしてはかなり不十分である。兵庫県農林水産部に全体のガイドブックを作成すると共に、一事業地ごとの詳細なガイドブックの発行をお願いしたい。

池田市においても市民参加によって里山整備を進めてゆくならば、このような整備地にガイドブックの作成を進めるべきであろう。

 

姫路工業大学 自然環境科学研究所長 教授

兵庫県立人と自然の博物館次長 生物資源研究部長 服部保

神戸大学農学部で昆虫学を専攻。同大学院自然科学研究科にて植物生態学を専攻。照葉樹林の研究の他、環境アセスメント、里山の保全、ビオトープなど各種応用生態学研究に従事。自然環境アドバイザ(建設省)他、自治体の環境影響評価審査会委員等を務める。著書に『新版自然保護ハンドブック』『日本の植生図鑑』『環境アセスメントハンドブック』等がある。

 

 

 

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