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今後果たすべき里山の役割

燃料生産という機能を失った里山ではあるが、我々国民にとっては、里山の持つ様々な環境機能、文化機能(特に風土・景観の保全機能、レクリエーション・アメニティ機能、生物多様性保全機能、さらに温暖化の問題にも関連する二酸化炭素の固定機能など)が非常に重要である。将来、里山は生産林として再生する可能性もあるが、現在、里山に期待されているのは里山の環境・文化機能である。今後、里山を『環境林』あるいは『文化林』として位置づけ、十分にそれらの機能を発揮できるような目標樹林タイプや管理方法を見出す必要があろう。

 

『環境林・文化林』の目標とすべき樹林タイプとそれの管理方法

燃料生産を主目的とする里山と、今我々が考えている環境・文化機能を重視した里山とは明らかに異なる。里山という用語は生産林として管理されている段階においてのみ使用できるのであって、生産機能を失った里山には里山という用語はもはや使用できないので、環境林、文化林の用語を用いたい。

夏緑林の優占する環境林・文化林の目標タイプとしては1)夏緑低林、2)夏緑高林、3)照葉樹林の3タイプが代表的である。この中で高林化がもっとも望ましい。その理由は3つある。第一の理由は低林として維持するためには、膨大な伐採および管理の経費と伐採後の雑木林の利用策が必要となる。人工林の管理さえできない今日、さらに生産性のない里山に多額の経費をかけることは無理であり、雑木林の利用が可能ならば里山の放置という問題は発生していない。このような理由は、低林に戻すことが困難なので消極的に高林化するということであるが、それに対して次に述べる2番目の理由は積極的に高林化させようとするものである。かつての里山は、草本の植物は多かったにせよ、林内を自由に歩けるほど木本植物は少なく、自然林と比較するとたいへん貧弱な林床であった。放置されることによって照葉樹やササ類の優占化といったマイナスの要素も発生しているが、林は高くなり、階層構造は発達して多くの森林性植物の生育が可能となっている。したがって高林となることによって、森林性植物の種多様性は一定の管理下で増加し、景観的にも地域のシンボルとなる樹高の発達した自然林のような望ましい樹林が形成され、またその樹林はレクリエーション的利用にも適している。3番目は、遷移させて照葉樹林化させるのは、前述したように種多様性が極端に減少するので望ましくないという点である。現実には管理できる里山はきわめてわずかであり、残りの大面積の里山はまちがいなく照葉樹林化してしまうので、少なくとも管理できるところぐらいは、絶対に照葉樹林化を阻止すべきであろう。

夏緑樹の高林化を進めるにあたっては、現相観を護り、種多様性を阻害する要因を除去するために以下のような管理作業が必要である。

 

1)フジ、クズなどのツル植物の伐採、刈り取り

2)ヒサカキ、ネズミモチ、ソヨゴ、アセビ、アラカシなどの照葉樹の伐採

照葉高木については環状剥皮を用いて、その樹木を枯死させる方法もある

3)ササ類、コシダ、ウラジロなどの刈り取り

4)侵入してきた竹類の伐採

 

兵庫県の里山林整備事業

兵庫県は森林の持つ環境機能を重視し、公的管理による森づくりといった、森林整備に関する総合的な長期計画を立案している。この計画の中で、里山の整備は里山林整備事業として取り上げられ、平成6年度より現在平成12年度まで約60ケ所に及ぶ里山が整備されている。本事業は公園や公共用地内の里山を公園事業として整備するのではなく、私有地、共有地の里山そのものを整備対象としている点や、後で述べる生物多様性の保全を目標に上げている点で非常にユニークであり、他の都道府県にはない画期的なものである。参考例がなかっただけに、困難な点が多かったが、兵庫県林務課豊かな森づくり推進室、森と緑の公社、コンサルタント、ひょうご豊かな森づくり推進委員会、里山林整備事業のアドバイザーが一体となって事業を進め、大きな成果を収めている。

 

 

 

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