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ところが、点々と紅以外の春聯を貼られた大街門も見ることができる。黄色や青色の春聯は服喪期間を表しているのだ。前号で紹介したように、家族が亡くなるとまず大街門には白い対聯が貼られる。そして、新年を迎えると一年目は青、翌年は黄、三年間の服喪があけると通常の紅い春聯をはることができる。

 

2] 紅箋 春聯が大街門や各棟の出入り口などの室外に貼られる一方、室内も紅い紙に書かれためでたい言葉で満たされる。食品の保管場所には「余」「有」という字で年間をとおした食品の不足がないように願い、寝室の頭上には「擡頭見喜」と書かれる。この他にも様々な場所に紅い紙が貼られていく。服喪期間中、対聯の色は変化するものの、これらはいかなるときでも紅い紙が使われる。

 

3] 宝紙 宝紙は、黄色・水色・ピンク色の約三〇センチ四方の紙に「新・春・到・来」などと書かれたものをいう。紐でつなぎあわせた宝紙はロープで中庭に貼り渡す。普段洗濯物を干しているロープは祝いの言葉を中庭にはためかせる。除夕から正月五日までは掃除も洗濯も禁止だ。新年とともにやって来た福運を掃き出してしまうからだ。正月五日になれば送窮といって最初の掃除で悪運を掃き出す。このときに宝紙は新年最初の洗濯物にとってかわられる。春聯や紅箋はどんな住まいにも普遍的に見られるが、宝紙は近年の流行のようで、必ずしも全ての住宅で見られるわけではない。

さて、服喪期間中の春聯と紅箋の色と貼られる場所に注目してみよう。前号までに婚礼や葬儀のときの対聯は、大街門だけに貼られることから、大街門がその家庭の状況を社会ヘアピールする性質をもつことを強調しておいた。服喪を示す色の春節の対聯、すなわち春聯は各棟の出入り口にも貼られている。一方、部屋の内部空間の装飾には祝儀を示す紅色が使われている。つまり、服喪を示す範囲は中庭までで、居室部分だけは春節という祝儀の空間として分けて捉えられているのではないだろうか。

家族だけの住まう住宅であれば、家族全員でこれらの装飾をしていくわけであるが、複数の非血縁家族が住まっている場合、お互い共同で利用している大街門や土地・門神堂の春聯は一年ごとにもちまわりで貼ることにしているようだ。大街門はともかく、土地・門神堂については信仰のない人は除外して各世帯の好みにあわせて書かれる文句も決められる。とはいっても、土地・門神堂の春聯は、服喪期間中の家族を尊重して紅い春聯は避ける傾向が強い。こんなことからも、血縁家族だけの住宅から非血縁家族の集合住宅への住まいかたの変化を受け入れつつ、お互い協調しながら住まっている現在の平遥の住まいのあり方が見えてくる。

 

春節の祭祀

 

華やかに飾られた住まいでは、春節ならではの祭祀もおこなわれる。除夕から正月一五日までの春節期間中、普段はしまいこまれた祖先や神々の位牌が所定の場所で供物や線香を供えられる。

そもそも、血縁家族だけが住まっている場合、祖先や多くの神々は正房の中央の間にしつらえられた祭壇にまつられることになっている。これまで日常の住まい方や婚礼・葬儀の人々の配置などに見てきたように、人であれ序列上位のものが方位的にも上位の場所に配置される。

 

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12] 竈神−特別な画像などは見られないものの、このように竈の隅には花儿や線香が供えられている。

 

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13] 祖先−中央の牌位は、父と2人の母のもの。左端だけ紅い紙でおおってあるのは存命の継母のもの。神々には花儿が供えられるが、祖先には供という丸い饅頭が供えられる。この家の場合、正房をひと家族で使っているが、正房を2家族で分割して住まっているケースでは、横にもうひと家族の祖先がまつられる。

 

 

 

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