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というのも、現在では血縁関係のある家族だけの住まいとして存在する住宅は数少なく、むしろ複数の非血縁世帯の住まう住宅が大多数を占めるからだ。この両者の違いに注目しながら非日常の住まいのしつらえについて見ていこう。(9]〜13])

 

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9] 家の日常と正月の室内の様子−日常の雑然とした室内は、整頓され、正月の設えを施される。図中に見える炭は、正月一日0時の時報とともに火を点される。上は日常の様子(一九九五年一〇月八日)、下は春節の様子(一九九六年二月一九日・農暦正月初一日)

 

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10] 装飾に満ちた中庭−中庭に掛けられた宝紙、軒先に掛けられた紅い提灯、ドアや柱にも紅い春聯。ドアに向って屈んでいるのはこの家のお婆さん。春聯貼りの最後の仕上げをしているところだ。

 

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11] 正月料理−除夕の晩に用意された特別な御馳走。メインは豚の脂身を煮込んだもの。家族で食べるほか、祖先や神々にもこれらが供えられる。

 

住まいの装飾

 

1] 春聯 除夕の朝、街路のそこかしこに脚立をもちだして春聯を貼る風景が見られる。前日までに用意しておいた春聯は除夕の午前中にすべて貼りおえなければならない。まずは、住まいの顔ともいえる大街門の両脇に、米をつぶして作った糊で丁寧に貼り込んでいく。めでたい言葉の書かれた紅い紙に彩られた大街門は、普段の灰色の街路を華やかに演出する。大街門以外に、二街門やそれぞれの建物の出入り口の両脇にも春聯は貼られる。婚礼や葬儀で見たように、日常的にも対社会の結界となっている大街門は、儀礼の際には対聯などの装飾によって住まいの内部空間の意味が日常と異なることを社会にアピールする装置になる。春節に貼られる春聯もまた、そこに住まう人々が言祝ぎの時を過ごしていることを物語る。

 

 

 

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