8] 正月二日の射的屋−北大街の交差点に出された射的屋。普段はこのちょっとした空き地には焼そばの屋台が出ている。除夕まで、買い物客の腹ごしらえに一役買った焼そば屋も正月一日から三日まで休業し、その間だけ、射的屋が店を出す。
春聯以外にも紅色の紙にめでたい言葉を書いた小さな紙を壷や箪笥などさまざまな生活用品に貼るのだが、これは春聯と区別して紅箋と呼んでいる。春聯や紅箋は自宅で作ることもあるし、達筆な知人に書いてもらうこともあるが、屋台を出している職人に一枚一〇元ほどで書いてもらうこともできる。便利なことに春聯の文句集のような本があり、客はそこから好みの文句を選ぶことができる。職人たちの中には、筆を口でくわえて器用に文字を書いていくものもおり、人だかりがするほど人気を集めている。
年画という室内に貼る正月らしいめでたいモチーフの絵画もそこかしこで売られている。最近では神々の群像などの伝統的なものよりも、風景画がよく売れているようだ。
2] 祭祀用品―花儿・線香・ろうそく 春節期間中は、一年中でもっとも神々や祖先をまつる期間が長いから、かれらのための供物の用意もしなければならない。供物の中でも特徴的なのは花儿と呼ばれる装飾的な饅頭だ。自分で器用に作る主婦もいるけれど、南大街の市楼の横手にある饅頭屋で買うこともできる(一九九六年当時)。
普段は、主食の饅頭や菓子類を売っているのだが、春節などの節句のときには供物専用の饅頭をあつかう。また、祭祀には欠かせない線香やろうそくもこの機会に買いそろえておく。
3] 花火・爆竹 新年を迎えるのに花火や爆竹も欠かせない。年越しの0時と朝日の昇る瞬間にどこの家でも大畳の花火や爆竹をあげるからだ。
4] 正月料理の食材 年越しの食卓に並べる御馳走のための食材の中には主に屋台で購入しなければならないものもある。普段の食事は質素で、肉類すら食卓に上ることは少ないから、肉屋も三軒ほどしかない。だから正月料理に欠かせない豚肉の煮凝り用の肉や日常的には見かけることすらない魚などは屋台でまかなう人が多い。
5] 拝年用の菓子 この他にも年始挨拶の菓子類も屋台で買っておく。
こうした品々を商う屋台は除夕の夜まで軒をつらね、平遥近郊農村からの買い物客も含めて足の踏み場もないほどの人々でまちはごったがえす。ところが年が明けると一転、まちに人影が少なくなる。拝年といって年賀の挨拶に行き交う人々や道で遊ぶ子供たちが見られるくらいだ。道を埋め尽くした春節準備の屋台も姿を消す。かわりに、贈答品の菓子や子供用の玩具、射的の屋台、風船屋などがぽつぽつとあらわれる。正月二日までは、店も公共機関も休みなので、まちはいつにもまして静かである。休みが明けたころ、正月一五日に家族全員で食べる元宵という餡入り団子の屋台がそこかしこに出店されるようになる。(2]〜8])
年越しの住まい空間
春節準備の住まいは常日頃とは違って忙しく、賑やかだ。主婦たちは正月料理の準備におおわらわ。そして、外地から帰ってきた子供たちやその家族も一緒になって住まいの飾り付けをし、神々を所定の位置にまつっていく。どこの家でも同じような忙しい風景が展開されるものの、春聯を中心とした住まいの飾り方、神々のまつられる場所には大きな違いがある。