[連載]平遥山西省の住まいと文化 6]春を迎える…田村廣子
平遙の冬は寒く厳しい。もともと灰色に塗り込められたようなまちなみが、零下一〇度以下の霧と北風に吹き上げられる黄色い砂におおわれて、冷たい表情を見せる。寒さが耐えきれない程に極まった頃、太陽暦でいえば二月の初旬、平遥に春節がやって来る。日本でいうところの正月にあたる春節は、長い冬から万物成長の春へと転換する一年のサイクルの始まりである。まちも住まいも新春を祝うための装飾におおわれ、除夕(大晦日)の平遥はそれまでの冬景色から一転、言祝ぎの雰囲気に包まれる。
春節の三日前には休みに入る職場や学校が多い。除夕の夜を家族とともに過ごすために広い中国全土に散った人々が故郷に帰って来る。彼らを待つまちも、普段とは一変、春節準備に慌ただしい様子を見せる。休みに入った官公庁や病院に人影はない。かわりに、これらの建物の門は紅色を基調とした華麗なゲートを取り付けられてまちを彩っている。牌楼と呼ばれるこうしたゲートは、官公庁などの入り口だけではなく、西・東大街の二箇所の入り口にも通りをまたいで建てられる。牌楼は、正月一五日におこなわれるであろう秧歌隊の通過を待っている。除夕の前日、まちの雰囲気を一変させているのは華やかな牌楼だけではない。西・東・南大街といったメインストリートには五メートルほどに一軒の間隔で、大年貨と呼ばれる春節に使う様々な品をそろえた屋台が出ている。賑わうまちは春節期間中におこなわれる行事にむけた準備におこたりない。
さて春節期間中、除夕から元旦にかけては家庭内でさまざまな祭祀を含む行事がおこなわれる。一方、正月一五日にはまちを舞台とした行事をみることができる。そこで、今回は一九九六年の除夕から元旦にかけての家庭内での行事と正月一五日のまちを中心におこなわれる行事を紹介しながら、祝祭の舞台としての平遥の住まい空間を紹介していきたい。(1])
1] 仮設の牌楼―東大街に建てられた牌楼。全体が吉祥の色である紅いトーンで彩られている。
大年貨、春節準備の買い物
春節がやってくる。普段の仕事は遅くても三日前には終らせて、春節の準備を始めなければならない。このときのために特別に用意する品々は実に多いから、買い物だけでも相当の労力だ。なにしろ特別な品だから、日常的に買い物をしている南大街や西大街の商店で間に合わせられるものは少ない。それを補うように、多くの屋台が出てくるのだ。
リヤカーで引いてきた商品を道路にしいた布の上に並べるものや、自転車の荷台に積んできた商品を売るものがほとんどだから、屋台というよりも露店といったほうがいいかもしれない。さて、まず何から準備しよう。
1] 装飾用品−春聯・紅箋・年画 まずは、春節を迎える住まいを飾る装飾品の類だろう。春聯とは細長い紙にめでたい対句を書いたものであり、普通は紅色の紙を使う。これを大街門や二街門、そして各棟の出入り口の両脇に貼っていくのだ。