山折…インドには複雑な輪廻転生の考え方がありますから、死んだ人間の世界が生きている人間の世界が二重、三重に入り組んでいる、重層化している。これはわが国と同じですね。ただ、わが国の場合はもっと単純かもしれません。また生きているものと死んでいるものとが比較的自由に行き来するという点では、ギリシャ神話やローマ神話の世界も同様かもしれない。ただ魂の輪廻転生説その後の歴史に与えた影響ということでいうと、インドとか日本の場合は西欧世界に比べてはるかに大きいんですね。生きている人間と死んでいる人間が同じ位相で捉えられているところがあります。それは人間だけの話ではない。動物との間でもそうなんですね。動物も転生する。だから人間が絶対に優れているとか、死んだ人間が必ずしも絶対に不幸であるとかいう価値観でもないわけです。その関係はいつでも逆転する可能性がある。
谷川…恨みを呑んだ霊が現れてきて政治の支配者を脅す。恐怖を与える、これは日本歴史の特徴ですが、畏怖を与えるという例は、中国にはそれほどないように思います。
山折…日本ほどないかもしれません。道教の世界ではどうでしょう。
谷川…荘子は、生と死の世界をはっきりしないことをいっているように思えるのですが、恨みを呑んで死んだ霊が祟りを成すというのは、あまり聞きません。
山折…朝鮮半島でも祟り霊はそれほど強くない。