櫓の上にいる音頭取りの中で「皮切り」と称される人が、歌の始めの元唄を歌う。踊り手たちがそれを繰り返し歌いながら踊るのである。参考までに元唄をあげてみる。
「すくいさ」 ひだるけりゃこそ すくいさ来たに たんとたもれや ひとすくい
「音頭」 音頭取る子の声なら欲しや 深山ならしの蝉の声 音頭取る子が橋から落ちて 橋の下でも音頭取る
「高い山」 高い山から谷底みれば 瓜やなすびの花盛り 高い峠のあの風車 何を頼りにくるくると
「おさま」 おさま甚句はどこからはよた 三州振り草オッサマ下田から
「おやま」 おやま買う金私におくれ わしがおやまの代をする
「十六」 根羽ね十六習いたきゃござれ 金の四、五両も持てござれ
「能登」 能登のサバ売りゃいつ京へ登る あさっちゃ祇園のあとやさき 能登へ能登へと木草もなびく 能登は木草の本元だ
歌い方の一例を挙げてみる。
「皮切り」 ひだるけりゃこそ すくいさ来たに たんとたもれや ひとすくい
「踊り子」 たもれやたんと たんとたもれや ひとすくい
一つの踊りをあまり長くやると、飽いてだれるので種類を代える。その時の音頭取り同士のやりとりは次のようである。
「わしの音頭は声かれました 渡しまするぞご連中」
音頭を受け取る方は
「渡し下さりゃ受け取りますが 唄のつまずきご免なり」と歌い、そして「あまり踊りが退屈したに 踊りょ代えますご連中」と出る。これを踊り子が受けて返すと、音頭取りは次の唄の元歌を歌い、踊りが代わっていくのである。
十時頃になり「新野高原踊りの会」(会長佐川金寿氏)の肝入りで、踊りの会事務所に数十人が集まってきた。谷川先生と岡野先生のお話を聞くためである。