ところで、渡名喜島をシンボライズする南北の山丘であるが、その自然の状況は同一ではない。ニシムイ(146m)に代表される北丘の大部分は非石灰岩域であり、厳しいミーニシにさらされる中で丸みを帯び、グスク時代の里遺跡にみる居住跡や三穂田、明治期の火入れに伴う山頂付近までの段畑開発、近年の山火事による樹林の消失などかなり早い段階から断続的に人為的な手が加えられた地域である。
一方、南丘は北丘とは対照的に、島最高峰の大岳(176.1m)をはじめヲモ(150.6m)、義中山(136.9m)など複数の石灰岩山岳が起伏する複雑な地形で、いたるところで奇岩が露出するなどダイナミックで独特の景観が形成されている。南丘においても場所により耕作地として利用され大部分が二次林によって占められてはいるが、貴重な植物生育の環境にあり自然度の高い地域である。特に島の南東部は高さ170m、長さ200mに及ぶ岸壁が屏風のようにそそり立っており、県内でも類のない規模と自然景観を誇っている。
集落域では屋敷林が発達し、屋敷はもとより集落全体の防風林として県内有数の福木林がみごとな景観をみせている。しかし、集落を取りまく農地においてはもちきび、島にんじんを中心に作付けがなされているものの、遊休農地も多く土地改良事業等の人工改変地を中心に外来植生も定着しつつある。集落や農地を守る保安林はモクマオ等の外来植生が主体となっているが、その中にはオオハマボウ、アダン等の在来植生やヤエヤマアオキ等の希少な薬効植物もみられる。
海浜についてはハマボウフウやハマユウ、イノーにはザングサとなるリュウキュウアマモ、ウミヒルモなど自然植生が豊かである。
渡名喜島の景観的骨格構造を認識し、それを支える重層的土地利用の履歴と現状を確認することをとおして、島の歴史的景観を活かす自然環境とは何かを思考しようとするとき、その基調に据えるのはやはり島人の生活文化を育んできた島本来の自然植生の保全・回復であり、また長い期間をとおして人間の影響とつり合って成立してきたフクギの屋敷林等の保全・継承である。
このことは、言葉を換えれば村民生活や生産活動の共通の基盤となる島の土地利用を、暮らしと自然との関係の中でどう持続可能なものとして理解し、かつ魅力あるものとして継承していくかであり、一言でいうと村民生活と自然とが共生した本物の島づくりを指向するものである。