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1-4 浮野の里地域の土地利用と環境

 

加須市が埼玉県有数の穀倉地帯であることを反映して、浮野の里地域もほとんどが農地となっている。農地のうち、水田が圧倒的に多く、その広がりが浮野の里の景観的なベースとなっている。しかし、最近は耕作放棄地も目立つようになってきた。ところどころには畑や樹園地も見られる。

水田のめぐりには、ところどころに利水装置としての田堀が残されている。これは、かつての新田開発の名残であり、今は機能していない。しかし、水辺の自然環境を豊かにするビオトープとして、あるいは景観を豊かにする装置としての、現代に求められる新しい役割を担おうとしている。

浮野の里の最大の特色は「クヌギ並木」である。当地域は、洪水時に権現堂川からの逆流水によってしばしば被害を受けたため、堤防を築き、そこに水湿に強いクヌギを植え、薪炭林あるいはハサ木として活用してきたといわれる。また、これは推測であるが、水田地帯唯一の公共の緑陰として、休息の場、心のやすらぎの場として機能していたのではないかとも想像される。

未利用地として、昔から「あさまや」「ちりじや」などと呼ばれてきたアシ、マコモ、アゼスゲの群生する湿地性の原野があった。「あさまや」は「浮野」とも呼ばれていた。アシ原はかつてはカヤ場として利用されていたところもあり、耕作放棄後にアシ原に遷移したところも少なくない。

住宅はここの場合、基本的には散村型集落の形態をとっており、微高地に点々と居を構えている。ほとんどの住宅は屋敷林や高垣で屋敷地を囲い、自然の猛威に対抗するための散村特有の居住環境をつくりだしている。

このように、浮野の里は広々とした空間を形成する水田をベースに、その関連施設として残存する田堀、クヌギ並木や屋敷林などが生活の必然として配置されてきた。それが、結果として地域特有の農村環境−ふるさとの原風景−を形成し、首都圏に近接しているにもかかわらず、大きな変質がないまま、今なおその農村環境が受け継がれている。これが浮野の里の現在の姿なのである。

 

 

 

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