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2 浮野の里の地域資源とその特性

 

浮野の里は、都市化の影響をもろに受けやすい首都圏と至近の距離にありながら、驚くほどなつかしい、武蔵野の面影をいまなおとどめる、不思議な雰囲気さえ漂わせる空間である。ここでは、そうした地域資源の魅力やその特性について掘り下げてみる。

 

2-1 景観資源

 

【水田】 水田地帯は広がりのある開放的な空間を創出する。圃場整備されていない旧来の区画が残り、その不定形な畦が、単調な平面に微妙な絵模様を描き出す。水田の季節変化は、風景をダイナミックに塗り変える。浮野の里の景観を構成するベースとなるものが、この水田である。

【田堀】 かつての新田開発の面影をとどめる田堀は、低湿地という土地的特性を生かした当時の営農利水システムのイメージをつなぎ合わせてくれる。農業の近代化にともなって田堀本来の機能は失いつつも、うるおいのある空間を創出し、多様な生物を育むという新しい価値を、今の時代に授けてくれた。

【アシ原】 屋根葺き材料の貴重な供給源として維持管理されてきたアシ原は、生活環境の変化で未利用地になったり放棄水田がアシ原に変わるなど、状況が変質しているところはあるが、住民の生活とかかわった原風景のひとつであることにはかわりない。

【クヌギ並木】 洪水防止の堤防に列植したクヌギ並木は、面的な雑木林とは形態が異なるが、武蔵野のイメージと重なり、田堀の水面と一体化した個性的な風景は、まさに地域のシンボルにふさわしい。横の広がりで構成された水田地帯にリズムと立体感を生み出し、季節の変化とあわせて、単調な空間を豊かなものにしている。

【屋敷林】 散村型集落の当地域は、生活を守ために気象緩和装置としての屋敷林を築いてきた。屋敷ごとに異なるスケール・形状は個性的で、島のように浮かぶボリュウム感のある姿は、田園景観の力強いアクセントとなっている。その深みのなかからは、幾代もつづいてきた生活の蓄積をも語りかけている。クヌギ並木とともに、郷土の顔となる重要な資源といえる。

 

 

 

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