1-3 浮野の里の自然史
1) 「浮野」とは
加須市の東端付近に、古くから「ウキヤ」と呼ばれる50アールほどの、四方を堀で囲まれた低湿地があり、水田とは区別されていた。ほぼ中央にも東西方向の堀があり、その北側に3つの池塘と古井戸と呼ばれる円形の池があった。近所に住む古老の話によると、過去何回かの洪水の時に、この土地は冠水することなく浮上するため、この名があるという。
「ウキヤ」とは、浮かぶ原野、あるいは浮き上がる原野という意味からきているといわれている。
最近は治水がしっかりしているため洪水が起こることはほとんどなくなったが、昭和22年の利根川決壊による洪水時には、実際にこの部分だけ浮き上がったことが目撃されている。しかし、古井戸の池の水は濁らず、洪水時には飲料水としてわざわざ船で汲みにいったという。
昭和27年の春、橋本庸氏(浮野の里・葦の会)がたまたま郷土の動植物を調べていたところ、トキソウやカキツバタなどの群落を発見し、専門家に調査を依頼した。すると、自生する植物のなかに、寒冷時代の残存種と考えられるものが数種類見つかり、さらに、それらの生育を可能にした環境も貴重であることがわかった。