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インタビュー

 

旅館は日本文化の素材を駆使した芸術活動

アジアとの地理的有利性を活かした振興を

 

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(社)国際観光旅館連盟名誉会長

下竹原弘志

 

■まず、WACへ参加し感じたことをお聞かせ下さい

下竹原 TAPが1989年に初めて熊本・長崎県で開催された時、地方委員として出席しました。WAC中央委員としては北陸WACからです。TAPからWACになったのは平成10年の東北六県での会議からですが、当時と比べると、新幹線・高速道路が整備され、交通も大変便利になりました。これにともない人々の行動範囲も広がり、したがって従来より広域連携化した形で取り組むことは非常にタイムリーだと思います。

また、地域の“光”をだすには一県単位ではどうしても力が足りない。より広域化した形で観光資源を上手につなげていけば、新しい魅力を引き出すことができるのではないでしょうか。さらにWAC会議は中央と地方、官と民が一緒になって話し合いをするわけですが、いろいろな専門家やプロが一同に会します。こういう会議を地方で開催するのは大変意味があると考えています。

 

■最近旅行者のニーズが変化してきたといわれますが、宿泊産業はいかがでしょうか

下竹原 例えば、余暇の過ごし方では従来の浪費型から親子そろってのハイキングや美術館巡りなどの趣味趣向、自然鑑賞など文化思考型となってきました。旅館も最近は女性客が目立ちます。お客さんのニーズについては普段から接触しコミュニケーションを行っています。また、いつも内容を変えながらアンケートを用意し、その結果を総合的に分析。さらに学者の意見もミックスしながら旅館経営のあり方や将来の方向を見定めています。

 

■今後の旅館経営のあり方はいかがですか

下竹原 料理とサービスが良ければリピーターにつながりますが、私は「旅館の経営はあらゆる日本文化の素材を駆使した芸術活動である」という信念をもっており、旅館は常に文化的な情報を発信すべきだと考えています。

今、人々はゆとりある生活を求め、文化的・芸術的雰囲気に対する欲求が高まっています。こうしたニーズに対応するには伝統文化を基調に考えることが大事です。日本文化を生みだし、日本人らしい美意識が熟成されたのは江戸時代です。この時代は庶民文化が栄えましたが、これを支えたのは湯屋、風呂といわれています。

旅館は庭園の手入れや床の間の掛け軸、花の飾り方、調度のしつらえにしても日本文化の常識を外れず、また、文化の根底にある風流、風雅、みやび、わび、さびなどを大事にしています。さらに教育産業ともいわれ、社員の服装、言葉遣い、立ち居振るまいや作法などを教育し社会的な役割も果しています。

 

■南九州の観光についてお聞かせ下さい

下竹原 南九州三県は他の地域にない観光資源を持っています。熊本は阿蘇山で象徴されますが、加藤清正が築城した熊本城、美しい自然景観にも恵まれています。宮崎はトロピカルな自然のほか、高千穂峰は皇孫降臨の伝説など神秘的です。また、鹿児島は世界遺産の屋久島があり、活火山桜島があります。また、黒潮文化は仏教、キリスト、鉄砲伝来の歴史を持ち、日本の文明開化のさきがけとなりました。

 

■今回のWAC会議では何を期待しますか

下竹原 鹿児島と宮崎両県は歴史的にもお互いに協力しあって行ってきましたが、WAC会議を機に熊本も含め、さらに一体的に取り組んでいくことが求められます。会議では具体的な課題について、双方向で討論しながら問題点を明らかにし、キャッチアップしていければと思います。

とくに今後の課題は高齢化、少子化の進展によって、観光人口がどう変化するか。また、どのように外国人観光客を誘致するか。国内旅行に期待が持てない以上、これからは、まずアジアを中心に集客計画をたてるべきです。九州は中国、韓国、台湾との地理的利点を生かす必要があると考えています。

 

 

 

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