N 地下水系の諸相 ―富士山の地下水と人間生活―
長瀬和雄 (神奈川県立生命の星・地球博物館研究員)
はじめに
地球は水の惑星と呼ばれています。その地球で、21世紀は水の世紀と言われている。20世紀にエネルギーを求めて人類は度々戦争を繰り返した。世界銀行は、21世紀に水が原因で戦争が起こるかも知れないと予測している。水は海に97.5%、氷床・氷山に1.7%、地下水が0.7%で、ここまでで99.9%を占める。河川や湖沼の水は合わせても0.02%にしか過ぎない。これらの水は太陽のエネルギーにより絶えず相互に循環しています。私達の体の半分以上は水でできていると言われますが、その水も大きな循環の過程の水です。氷河・氷床の99.5%は南極大陸とグリーンランドにあるので、我々の住んでいる地下数メートルにある地下水は最も身近にあって、最も利用し易い水資源といえます。日本では水道の栓をひねれば、いつでもきれいな水が蛇口から出てくるので、日本人は水に対し大変認識が低いのが実状です。
21世紀を迎えるにあたって、水についてもっと関心を持ってもらうことを目的に、日本を代表する富士山の地下水について、これまでの研究成果をとりまとめました。
1 富士山の地形と地質
富士山は美しい円錐形の火山で、北東では福島県の阿武隈高原の日山、西方では和歌山県の那智山から見ることができるといわれている。
富士山の標高別面積分布をみると、標高3,000m以上は9km2、3,000〜2,000mは43km2、2,000km〜1,000mは326km2、1,000m以下は679km2と計算されている。
富士山は、標高700m以上では円錐斜面、700〜200mは裾野斜面、200m以下は扇状地状斜面に区分される。さらに詳細に斜面を検討すると、標高1,700から1,800mあたりに地形傾斜の変換点があり、これより高いところでは新富士火山新期溶岩が累重している。この溶岩は粘性が高く、急勾配を呈し、火山灰やスコリアが互層する。
富士山は、丹沢山地や御坂山地に露出する中新世の丹沢層群あるいは御坂層群を基盤とし、小御岳火山、古富士火山、新富士火山の三つの火山が重なって形成されている。
数十万年前、伊豆半島がプレート運動により本州の一部になった頃、丹沢層群あるいは御坂層群が露出する駿河湾の北に広がる陸地で、南の愛鷹山とほぼ同時に、箱根火山より少し早く、小御岳火山の活動が始まった。これが富士火山の活動の始まりである。小御岳火山は安山岩質の溶岩や火山砕屑物を噴出し、南の愛鷹火山、少し遅れて、箱根火山が活発に活動した。愛鷹火山、箱根火山は小御岳火山と同じ安山岩質の火山活動であった。
富士山北側の富士スバルラインの5合目終点の小御岳神社付近に小御岳火山の山頂火口(標高2,300m)の西端が位置したと考えられている。このあたりを頂点に1.5×2.0km2の広がりをもって、富士山の北斜面に小御岳溶岩が露出している。そのあたりの地形は、谷筋の形成など侵食の度合いが大きく、愛鷹火山や箱根火山の地形に似ている。
小御岳火山の火山活動の終了後、長い休止期のあと、8万年ほど前に古富士火山の火山活動が始まった。古富士火山の噴出物は関東平野に厚い関東ローム層上半の新期ローム層(武蔵野ローム、立川ローム)として残っている。しかし、富士山の山体においては新富士火山の噴出物に厚く覆われているので、噴火の中心が何処にあったのかははっきりしない。