タイプ2「分散範囲が中程度の種」:タイプ1と3の中間的な特徴を持つ。ニホンアワサンゴがあげられる。これは親の近くに定着可能な幼生と、海面に浮上して遠くに分散することが可能な幼生を放出する。タイプ3「分散範囲が狭い種」:生息環境の中では死亡率が少ないと考えられるサンゴである。アオサンゴはこれに該当する。サンゴの中で大きな幼生を少数つくり、確実に親の近くに幼生を定着させて、生息環境の中で効率良く増殖する。幼生は比較的底性的であり、放出後1時間から高い割合で定着する。最大の定着可能期間は、アオサンゴの場合は20日と「タイプ1」と比較すると短い。親の近くに定着するため、偏った群落をつくりやすい。アオサンゴのほかには、ニオウミドリイシなどIsopora属の仲間が含まれる。
このように、サンゴの繁殖戦略は多様性があり、それぞれの繁殖方法によって、さまざまな特性をもった幼生を放出し、それぞれの場所に分散・定着させる。その結果、異なる分布パターンをつくっている。
3-5 保全に向けて
本研究で扱ったアオサンゴは、白保サンゴ礁に大規模な範囲に(100m×500m)高密度に分布する。冒頭で述べたとおり、この海域は、石垣島空港建設の予定地になった場所であったが、現在ではこの海域への空港建設は白紙に戻されている。白保サンゴ礁での保全活動の動きを受けて、昨年、白保にWWF Japanによって研究センターが設立された。センターでは、地元の人々や訪れる人たちに啓蒙活動を行っている。また、2000年には、石垣市内に国際サンゴ礁研究モニタリングセンターが設立され、サンゴ礁に関する情報の収集・整理・提供、サンゴ礁モニタリング調査、啓蒙活動を行っている。現在の環境の悪化によるサンゴ礁の危機によって、ますますサンゴ礁の保全の動きは高まっている。
幼生の分散の研究は、サンゴ礁保全のあり方にも新しい視点を与える。本研究の結果から、仮に何らかの理由でアオサンゴの個体群が死滅した場合、他の海域から幼生が分散して加入する可能性は低く、その回復が遅くなると考える。この例からも明らかなように、サンゴの保全には、幼生の供給面を中心とした繁殖生態の視点が不可欠である。
4. おわりに
サンゴ礁は現在、グローバル・ローカルな環境変動によって破壊の危機にある。こうした破壊に対して、工学的な対応が検討されている。たとえば、サンゴ州島の海面上昇による水没に対して、コンクリート護岸やテトラポットによる対策にどのくらいの費用が必要であるかが検討されている。
しかしながらサンゴ礁は本来、大きな環境変動に適応することできた生態系である。コンクリート護岸の代わりに、サンゴ礁の形成やサンゴ幼生の加入を促進して対応するという方策はないのだろうか。環境変動の圧力を取り除く方策はないのだろうか。その生態系としてのポテンシャルを最大限に活用して、環境変動に適応・対策する方策を、サンゴ礁の地学・生態学的な研究成果に基づいて提案することが21世紀に美しいサンゴ礁を伝えるために、是非とも必要である。