従来、わが国では平均1,700mm/yの降水量があり、これが1,400mm/yになると各地で渇水問題が起こっている事実がある。これが事実であれば300mm/yの不足が渇水を招くという事で、年平均1,500mm/yになると100mm/yの減少で水不足の問題が生じることになる。
また、わが国の開発可能水資源は平年期で4,217×108m3と考えられており年間200mmの水不足は528×108m3の開発可能水源の不足をもたらし、この値はわが国の農業用水の90%に相当する水量である。
温暖化に伴う降水量の変動はスリランカにおける榧根の研究があるが、わが国で降水量が減少したなら、どこかで増加しているはずである。入手した資料を用いて検討した結果、西サモアにおいて雨期の降水量の増加が認められたが乾期では減少の傾向にあった。
降水量の変動は温暖化による気温変動と共に地球環境形成の重大問題である。
(4) 南太平洋における海洋前線の移動(付図2)
わが国の南極観測船は南極への往復路において海洋の定常観測を行い、その結果膨大なデータの集積がある。また、幸いなことに、ほとんど同じ時期に同じような航路を走り表面海水の計測を行っている。
異なる水魂の出会う所として、南極前線(Polor Front, PF)、亜南極前線(Sub-Antarctic Front, SAF)および亜熱帯前線(Sub-Tropical Front, STF)が観測される。これまでのデータを詳細に検討した結果、これらの前線の位置は、塩分濃度、ケイ酸塩、硝酸塩の変動により定めることが可能であることが明らかになった。
STFは塩分濃度、SAFは硝酸塩濃度、PFはケイ酸塩濃度によりこれを定めるのが最も適切であることが示されたので、この同一の基準にもとずき各前線の位置を定めた。
これらによると、PFとSTFの変動は逆のパターンを示すようにみえる。このゆらぎつつ変動する前線の移動を線形回帰すると、PFは北方に、SAFは南方にそれぞれ年間10km移動している傾向が見出された。これは南から冷たい水が北へと拡がり、北からは暖かい水が南へと拡がり、バッファーゾーン(緩衝帯)の幅が減少していることを意味する。このようにバッファーゾーンの減少は温暖化の効果が海水に及ぼされると考えてよい。
(5) 氷の融解と海面上昇
南極において氷の流出は年間1000〜2000Gtと考えられており、氷の流出と雪による降水量とはほぼ釣り合っていると考えられていた。南極における氷の融解量の見積りは極めて困難である。今回PFの移動が氷の融解による冷水の張り出しのためと考えて、南極における氷の余剰融解を見積ると年間平均160Gtとなる。これは年間流出氷量2000Gtの8%に相当する。これは前線の移動によりはじめて見積ることができた量である。
これにもとづいて海面上昇を求めると年間約0.4mmとなる。この値はIPCCが合意した年間海面上昇の未確定部分0〜0.4mmにオーダーとして一致する。
IPCCによる海面上昇は、この100年で、1.5±0.5mmy-1であり、このうち熱膨張の分が0.4±0.2mmy-1、南極、グリーンランド以外の氷河の方が0.4mmy-1、グリーンランドの分が0.2mmy-1であり、0〜0.4mmy-1分は未確定であり、この分が南極によるものと考えられる。