日本財団 図書館


しかし、この家はゴミ山崩壊ラインの危険区域に入っているため、移動を勧告されている。移動するとますます貧しくなるため、引越しはしたくないと言っていた。

夫のラドックさんはアルコール中毒で現在失業中、スカベンジャーをしている。長男は高校を出ているが、父と同じくスカベンジャーをして家計を助けている。長女は高校を出て現在職業訓練学校に行っている。4・5番目は女の子の双子で高校に行きながら働いている。ネストルは9歳でSALTが運営を援助している小学校の4年生である。キンバリーは2歳、彼女もSALTの幼稚園に通っている。この家族はこの通り母が教育熱心である。

しかし、教育熱心ではない家庭の子供や、スカベンジャーをする子供の多くは、小学校にも行けない。スカベンジャーの多くは、親が教育を受けておらず、スカベンジャーは教育を受けていなくてもする事ができ、子供も大事な働き手と考えるため、教育の重要性を理解している人は少ない。教育を受けておらず、字もほとんど読むことができなければ、就職もできず、結局スカベンジャーをするしかない訳だが、高校を出てある程度の教育を受けたからといって即仕事に結びつき、生活が楽になるわけではない。私見だが、マニラの中産階級以上の人々の中には、根深い偏見や、階級意識があるのではないだろうか。

お母さんのエルシーさんは元気な人で、ネストルやキンバリーも健康そうだった。私たちが家にお邪魔している最中、窓から近所の子供たちが覗いており、元気な笑い声が外から響いていた。私はこの子供たちがどういう風に育っていくか、考えずにはいられなかった。私たちは今、恵まれた日本に育ち、いろいろな細かい事を気にしながら、笑ったり怒ったりしながら生活しているのだが、ここの人たちは私たちが気にするような細かい事は気にならないだろうなと感じた。それよりも今を生きていくことに精一杯なのだ。

GOは物事を大局的にみて活動しており、NGOは様々な地元に密着した活動を行っている。現在の豊かな日本から途上国に活動に来ることで、日本にいては分らない、日本の抱える問題にも気づくのではないかと考えた。

エルシーさんの「仕事を求めてマニラに出てきたが、行きついた先はゴミ山だった」という言葉が非常に印象に残った。人は自ら求めて過酷な状況に行きつく訳ではない、様々な要因が作用してそうなるのである。私たちも何かを成さねばならないと考えた。 (金川)

 

2] アサントール家

Asantorさんの一家は5人家族である。土砂崩れの場所から程近いお宅を訪問すると、母親のProfetizaさん、長女のJonalynちゃん、三女のJeniferちゃんが迎えてくれた。一家の生計は政府関係の機関で修理工をしている父親の収入で賄われている。Profetizaさんは3年の教育大学を出て、現在SALTの補習授業の先生のボランティアをしている。土砂崩れの際、泥水と一緒にゴミが部屋の中まで押し寄せてきたが、家屋の崩壊は免れたという。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION