もちろん、そこには犠牲者の鎮魂や平和に対する深い祈りなども託されているが、廃虚から再建した広島の人びとの偉大な努力とエネルギーへの讃歌や、その風土のもつ永遠の美しさに対する思いもこめられている。そして、その終曲では、イギリスの詩人エドマンド・チャールズ・ブランデン(1896〜1974)が、1949年8月6日の広島によせた詩を、ソプラノ独唱によって歌いあげている。また、日本の笛、能管と篠笛も用いられているが、全3楽章は、基本的に絶対音楽としての交響曲を志向したもので、標題音楽や描写音楽の性格をもたず、フォルムの上ではその追究から離れて、より自由な道を歩もうとしていることも思わせている。
第1楽章は、アンダンテ・マ・ノン・トロッポの序奏とアレグロ・リフレッシヴォ(思索的、反省の意)に始まる自由なソナタ形式による主部とからなっている。序奏では能管が招魂をし、祈りと苦難からの解放を示す。
第2楽章アレグロ・リトミコは、拡大されたロンド形式によるスケルツォ風の楽章で、エピソードとして<靹の浦大漁節>と<音戸の舟歌>もおいた力強いものである。
第3楽章は、アンダンテ・ソステヌート・エ・フューネブレに始まる形式的には自由な終曲である。冒頭に葬送の雰囲気をもたらし、第1楽章第2主題と関連をもつポコ・アニマートとの交代があったのち、ブランデンの詩が歌われ、コーダが精力的に全曲を結ぶ。
◎團伊玖磨交響曲とオペラ
交響曲第1番イ調…1949
オペラ<夕鶴>…1952
ブルレスケ風交響曲…1954
オペラ<聴耳頭巾…>1955
交響曲第2番変ロ調…1956
オペラ<楊貴妃>…1958
交響曲第3番…1960
交響曲第4番…1965
交響曲第5番…1965
オペラ<ひかりごけ>…1972
小交響曲…1974
オペラ<ちゃんちき>…1975
交響曲第6番<HIROSHIMA>…1985
オペラ<素戔鳴>…1994
オペラ<建・TAKERU>…1997