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「DAN YEAR 2000」に寄せて

 

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佐藤しのぶ(オペラ歌手)

 

先生と初めてお目にかかったのは、当時の文化庁オペラ研修所第四期生としての入所式でした。「こちらが、当研修所所長でいらっしゃる團伊玖磨先生です。では、ご挨拶を。」

入所式典という、すべてが初対面同士の気の遠くなりそうな緊張と不安の中で私の脳裏に浮かんだのは、「まさか!!この作曲家は話をしている、生きている!」という驚きでした。なんという失礼な、無知にもほどがある、とのお怒りは承知の上で、先生に直接この告白をいたしました。

團先生には、すでに私が小学校の頃、バッハ、モーツァルト、ベートーヴェンに並ぶ偉大な作曲家として、学校の音楽室で出会っていました。その、教科書に登場する史実の偉人が、直接私たちに語りかけてくださっている。そのことを理解するのに、時間が必要だったのです。

しかしながら、その偉大な作曲家のお話は、大変流麗かつ洗練、上品、端正なものでした。私が、あたかも音楽に包まれるかのようにしばしその響きと流れに聞き入っていると、いつしか私の中で、作曲家というもののイメージがすっかり塗り変えられてゆくのを感じました。その理由は、のちのち時間が教えてくれることになりました。

先生は、大作曲家であると同時に、「パイプのけむり」などで知られる優れた文筆家であり、指揮者、台本作家、メディアメーカーであり、また大変な美食家、旅人であり、つまり、あらゆる文化の功労者だったのです。

作曲という極めてストイックで孤独な作業に挑む険しさを微塵も感じさせない先生の物腰に、そのとき私は、真のジェントルマンを感じました。

常に、相手の立場を尊重し、穏やかで優しく親切で礼儀正しく、そのたたずまいは風のごとく軽やかで美しい。その博識と教養に導かれた有り様は、まさに先生の美学そのものを表していました。

そんな印象的な初めての出会いから、先生とお仕事をいくつもご一緒させていただきましたが、ついに21世紀に向かって、いよいよ「DAN YEAR 2000」の開幕を迎えると伺い、喜ばしい限りです。私も、2000年10月15日に『建・TAKERU』からの一部を、そして2001年1月28日には交響曲第6番「HIROSHIMA」を歌わせていただきます。

先生の輝かしい功績を讃えると共に、壮大で色鮮やか、豊饒な音の世界をご堪能下さい。先生の素晴らしい禾来にアプローズ!

 

 

 

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