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ソロ・ソナタと野菜ジュース

 

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千住真理子(ヴァイオリニスト)

 

あれは1997年の秋だった。ある演奏会で團先生の作品に触れた私は楽屋を訪ね、團先生にソロヴァイオリンのための曲を書いていただきたいというお願いに上がった。無伴奏曲に魅力を感じバッハやイザイを弾きつづける私にとって、團伊玖磨作曲の無伴奏ヴァイオリンソナタは斬新な展開を、私に与えてくれるだろうことをイメージさせた。

團先生はにこりとして「僕も丁度書きたかったんだ。無伴奏曲が」と仰ってくださった。早くも次の年、先生のソロソナタが完成へ向かうと團先生から連絡を頂いた。

「来て弾いてみて」と仰る先生の葉山のお宅に、私はさっそく車を飛ばした。

「弾きにくい箇所とかどんどん仰って」柔らかなお声のため、つい「それじゃあ」と、ずうずうしくもココが弾きにくいだの和音が押さえにくいだの生意気な事を言う私に、おおらかに「なるほど」とうなずいて私などの言葉を聞いてくださる。実に謙虚な巨匠のお姿に、私はひどく感動した。ソナタ1番を披露した秋の演奏会で、團先生は私にこう仰った、「第2番が浮かんだよ。さっそく作曲に取りかかりましょう。」間髪をいれずソロ・ソナタ2番に取りかかる先生はエネルギーに満ち満ちていた。そうして幾度となく、海岸沿いの葉山の道をドライブしながら、私は先生のお宅にお邪魔し2番が完成した。

まだまだ沢山の名曲を書いて頂きたいと思った私は、さっそく先生に私白身の健康法を話してみた。それは自家製野菜ジュース、である。

毎朝毎晩、小松菜・パセリ・人参・セロリ・キャベツ・レモンをジューサーにかけ飲むのである。「私はこれで健康が維持できるようになったので先生も是非!おばちゃま、試してみてください」おばちゃまとは先生の奥様のことであるが私はこう呼ばせていただいている。おばちゃまはさっそくメモを取ってくださり「わかったわ、明日からはじめましょう、これはいいわね」と仰ってくださった。普通こう言う事は社交辞令であったりするが團先生ご夫婦は、ちがう。一週間ほど経った頃、さっそくお電話を頂き「やってるわよ、今朝も夜も飲みました」とのご報告を頂き、その後も「飲んでますか?」が合い言葉のようになってしまった。

しかし、野菜ジュースは本当に健康に良い。ぜひ飲みつづけていただきたい。先生ご夫妻がいつまでもお元気で活躍していただきたいという一心からである。

 

 

 

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