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最長不倒記録保持者

 

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山下洋輔(ピアニスト)

 

團伊玖磨先生と個人的に言葉を交わせるようになったのは「宮廷楽団騒動」というものがきっかけだった。たまたまテレビで見た日本古来の雅楽専門の宮廷楽団が、西洋音楽もやっていることについて疑問を抱いたので、そのことをエッセイに書いて雑誌に載せていたのだが、それへの反応が皆無だった。自分が感じ考えたことは、まったく無意味なことなのだろうかと悩み、困った。

その時に、こういう事をお聞きするには團先生しかいないと思いついた。ご著書を読み、テレビでの講座を拝見し、またそのご交友関係などをもれうけたまわっていた経験からだと思う。失礼を省みず、つてを頼ってご連絡をさし上げたという次第だ。

團先生は、快くお会いくださり、かねてから御自分および識者の方々の懸案でもあったという私の疑問に、真っ向から答えられ、その豊富なご交友関係からくる数々の関連情報をお教えくださった。そして、この国の公的な音楽環境をどうやって良くするかについて、堂々たる自説を述べられた。二度目にお会いした時には、高円宮様が同席され、率直かつ有意義な会話が交わされた。こういう事を難なく実現されてしまうとはどういう方なのかと、しばし、畏怖の念にとらわれたものだ。

團先生は、優しい中に威厳があり、スマートであり、語られるそのお言葉は、膨大なる知識と経験に裏打ちされながらも常にどこかにユーモアが漂っている。伺っていてそれ自身が素晴らしい音楽作品のように響くのだ。

團先生が現代日本の音楽史の具現者であることは間違いないが、同時に圧倒的な記録の保持者でもあるという気がする。日本人なら知らぬもののない数々の魅力的な音楽作品とともに、他の追従を許さない「執筆する音楽家」としての開拓者の業績もある。この分野では、私なども、はるか後ろのシリウマに乗せていただいているわけだ。

そして、今、この区切りの時にあらためて気づくことは、團先生が、それだけでも充分偉大なそれらの記録の保持者にとどまることなく、今、この瞬間にも新しい記録を作り続けている先頭ランナーでもあるということだった。その証拠の一つが、今回のこの膨大なる快挙だ。まさに團先生にしてのみなしとげられる、ワン・アンド・オンリーの偉大なる祭典としか言いようがない。心よりお祝い申し上げます。

 

 

 

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