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歌手生活での宝物

 

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伊藤京子(声楽家)

 

6月11日オペラ“夕鶴”公演で幕開きとなる「DAN YEAR 2000」。私はこの一大事業の大きな意義とその成功を心から喜び、願っております。

團伊玖磨作品のすべての公演を言っても、それは本当に大変なことと思います。何故なら、團さんの作品は、1942年、歌曲“小諸なる古城のほとり”に始まって(私の知る限りでは)歌曲オペラ合唱曲交響曲協奏曲室内楽童謡映画音楽と、多岐にわたり、数え切れない程の作品達だからです。この様な大事業をその中核となって実現させた財団法人神奈川芸術文化財団の熱意に敬服し、重ねてそのご成功を祈っております。

1960年、私は「夕鶴」の“つう”を初めて歌わせていただいて以来、約30年間“つう”を歌い演じて参りました。その間に“聴耳頭巾”“ちゃんちき”の初演にも出演させていただきました。又、1970年12月、團伊玖磨歌曲のリサイタルのお話をいただき、上野文化会館小ホールに於いて、團歌曲の殆どすべてを二夜に亘って歌うことが出来ました。その時、團さんは、私とピアニストの三浦洋一さんにむかって“僕の歌は、もうお二人にお預けしたのだから、思うように演奏なさって下さい。”と言われました。事の重大さと責任の重さで、寝ても醒めても團歌曲が頭の中にうず巻き、あんなに勉強に打ち込んだことはない程でした。それは、私の歌手生活の中で、演奏の責任と喜びを知ることの出来た宝物のようなチャンスでした。

このたびの企画では、これまでの作品だけでなく、長年、構想を温めてこられた歌曲集「マレー乙女の歌へる」の初演もあります。オペラや歌曲を中心に、私の音楽生活で、技術や心の両面で多くの示唆をいただいた数々の團作品に、大きな感謝を感じております。

 

 

 

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