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構造美と思想・哲学

 

線に流れて構造のない音楽、これではちょうど建築の基礎がぐらぐらしているようなもんで、壁の色だけ考えているような音楽が、非常に多かったですね。それをやはり、構造をしっかりするということ、構造といっても、目に見えぬ音ですけれど、それにはそれの構造がある訳で、そして歌曲も、それから合唱も、オペラも、交響曲もむろん、それからどんな小さなスケールのものでも、フルートのソナタにしても何にしても、構造の美ということを自分なりに常に極めていきたいということが、作曲の僕のテーゼなんですね。ですから歌曲も、いい節があって、ただタリラリラリラリっていう伴奏がついている、そういった歌謡ではなく、歌曲というものは、芸術歌曲というものは、シューベルトが完成して、あとフランスだったらフォーレとか、ドイツだったらヴォルフとか、もう少し新しくなったらトゥルンクとか、プィッツナーとか、ああいうような人達のもの、最低あれだけの構造を持っていなければいけないと今でも思っているんです。それから、オペラもですね、やはり構造というもので、その構造の基盤になるものは思想であり哲学であり、それがないとただ面白そうな話だから歌って伴奏をつけるというのは、それは僕の書きたいオペラではないんですよ。最近僕が非常に憂いていることがたくさんあります。それは、オペラというものが誤解されて、本当の作品としてのオペラではなくて、イベントのオペラとして書かれるものが多いんですね。どういうものが書かれようといいんですよ、僕には関係ないんだけれども、でもそれでは日本のオペラっていうものが、西洋のあのオペラ座の舞台にかっちりはまってなかなか力を発揮できないと思うんですね。だからやはり初心である、構造を忘れないということに沿って、なおまだ続けていきたいんで、そういう考えは、一時は前衛華やかなりし頃は、本当に古い考えであって、今そんなことを考える人はいないだろうといわれる位に古くみえたかもしれませんが、これは古くないんです。やはり、温故知新といいますか、人間と音との関係は21世紀になるともういっぺん正常な姿を取り戻してくるんじゃないかと僕は信じているわけです。信じていた時代がきたという感じがしますし、そういうことのひとつのあらわれがこれなのかしら、と思ったりして、一所懸命、この「DAN YEAR 2000」がうまくいくように努力しようと思っております。

 

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團伊玖磨

 

[1999年11月29日神奈川県民ホールにて]

 

※佐川吉男氏は2000年5月10日に逝去されました。謹んでご冥福をお祈り申し上げます。

 

 

 

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