日本財団 図書館


それで、声楽が常に基礎になっている、それは確かにそうなんですけれど、それも「花の街」から「ひかりごけ」のようにヴァラエティに富んでいてね、批判も一部にはありましたけれど、「素戔鳴」「建」ではあえて古語を使っている。あまり歌詞にばかり気をとられすぎて、聴衆が音楽の構成に注目しなくなるのを避けるためにそうした、ということも言っておられましたが、そういう、次から次へ新しい実験を考えていらっしゃる。ですから、器楽的に自分を鍛える、と仰って、交響曲も先生の作品の中で重要な分野になっていますけれど、交響曲の1番みたって、4楽章の交響曲の4つの要素を1つにぎゅっとまとめる、というような感じでしたね。

 

オペラと交響曲を2本柱にした作曲家

 

それから2番も日本の旋律とヨーロッパの調性のどこに接点を見いだそうかと色々と考えたあげく、雅楽の語法も一つの突破口になるんじゃないかと仰った、そういった常に前進してやまない、というところに非常に感銘を受けているんですけれど、結果的には、現代の作曲家でオペラと交響曲が共に、2本の柱になるなんていう作曲家は、東に團、西にヘンツェくらいでしょうか。殆ど例をみないですね。日本では、まあ、池辺晋一郎さんなんかも今後の実績いかんによっては或いはと思われますが、目下の日本のオペラ作家としては前代未聞ですね。そういうわけで、なんか團さんというと保守的な傾向の作曲家だという風にみて、実体乏本当にみなかったりね、もっともひどいのは「建」の批判で、台本の素材をみて中身を見ない。あれは皇国史観と全く逆ですよ。これまで皇国史観的な扱いを受けていた「素戔鳴」と「建」を先生の手によって神棚から引き下ろして現代にまた生かそう、という作品なんですから、そこを見た人が極めて少なかったのは非常に残念なことでね、来年のこの神奈川での試みを機会に日本の重要な作曲家である團伊玖磨を見直すというひとつの大きな運動を起こしたいと私は思っています。

日下部:今のは大変いい結論だと思います。今回のイベントでもちろん終わりというのではなく、それがまた新たなスタートとなって、21世紀に世に素晴らしい作品をたくさん書いて頂きたいという風に、心からそう思います。

團:ありがとうございます。一言僕も付け加えさせて下さい。なるべく僕は今日は何もいわないでおこうと思ったのですが、やっぱり音楽の根本というものは何かということを言っておきたい。何のために、僕は何で作曲しているのかということが、はっきり自分の心の中で、まあ哲学的にというか、もう少し簡単にいえば思想的というか、あるいは考えがなければ1物を書くということは、作曲ということは出来ないですよね。なぜなら、文学でしたら具象性を持って、大という字に点をつければ犬になる。でも、犬っていうものを作曲しようと思ったら出来ないじゃないですか。電話帳3冊のようなスコアを書いても。まあ、それは一時シュトラウスや何かが交響詩の中でやろうとしたことはありますが。

ともかく、僕は明治以来の日本の音楽を徹底的に調べてみてですね、何が欠けているが故に世界的に通用しないのか、と思って研究をし続けてきました。ひとついえる結論はですね、構成がないんですね。

 

070-1.jpg

佐川吉男

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION