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大和田さんはさすがにやっては来てくれませんでしたね。でも「いついつにワシントンDCで演奏するんだから」といわれればそれにご用立てしなきゃいけないからと思って。

日下部:やはり歌の場合も特定の歌手がいて、ということですか?

團:そうですね、やはり歌の場合は長い間伊藤京子先生が随分触発してくださいました。伊藤さんによって僕は日本の歌がこう歌われるのか、ということを。男の場合は木下先生が模範を示してくださいましたけれども、女声の最初の僕の歌曲は低声、アルトのが多いんです。それは、四谷文子先生が非常に僕を刺激してくださったので、メゾから始まって、それから伊藤さんによってソプラノが多くなって、現在は佐藤しのぶさんが、「素戔鳴」「建」以来、刺激して下さっています。ですから交響曲の6番は佐藤さんを意識していますね。佐藤さんも歌いやすいといってくださっています。やっぱり演奏家と作曲家というものの協力度は僕の場合は大きいですね。常に感謝しています。またすぐれた方に恵まれているということも非常に幸せですね。これは古来作曲の人はみんなそうで、無目的には書いていませんよ。たいがい誰かのために書くとか、ということでモーツァルトだって、ヨーゼフ・ホッフアーというやたらと高い声がでる人がいたから「夜の女王」などを書いた訳でしょう?演奏家は作曲家にとって非常に大切なものだと思います。

藤田:「トロンボーンとハープのための3つの手紙」というのは今年の作品ですか?

團:ええ、今年の作品です。あれはブルガリアのトロンボーニストのスローカーが来て、彼と共演する三宅さんというハーピストがうちの玄関にふらふらとやって来て「書いてくれません?」となったの。(笑)来た人が勝ちなんですよ、僕は出かけないもんだから。それじゃ書こうかって目の前で書いたんですよ。これは不思議な曲ですよね、トロンボーンとハープですから。その中に「ぞうさん」が出てきます。県民ホールで初演しました。

大和田:最近先生の傾向では、無伴奏をお書きになってらっしゃる様子で、これは大変興味深いことと思います。

 

室内楽への傾倒

 

團:2年前、心筋梗塞で倒れまして、段数の多い楽譜を書く体力が正直いってありませんでした。1年間は。オーケストラなどは、とんでもない、歩行も困難だったんです。今やもとより良くなりましたけれど。でも作曲しない、ということは僕にとって出来ないので、どういうものを書こうかと。段数が少ないから易しいという訳じゃないですけど(笑)かえって難しい。そんな時にちょうど千住真理子さんが訪ねてきて、無伴奏の曲に今凝っているんだと、イザイの曲、無伴奏のソナタをやっているという話を偶然したんですよ。その時は作曲を、という意味じゃなかったんですけど、それじゃあ無伴奏のヴァイオリンのソナタを書こう、と決心したんですよ。小林武史さんには無伴奏じゃ悪い、と思ったから(笑)、武史さんに無断で千住真理子のために1つ書いた。そしたらそれが思ったよりいい結果だったんです。そしたらそこに、ウィーンに親子で移り住んで、セロを、ウィーンシンフォニカでトップソロを弾いている古井健太郎という巧いセロがいて、彼が急に電話をかけてきて、無伴奏ソナタを書いてよ、というからじゃあ書こうということになった。ちょうどヴァイオリン・ソナタを書いたばかりだったので、セロの無伴奏ソナタを書きました。

 

 

 

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