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作曲家が声楽家について習うということは希有だと思うんですよ、でもそれが私の声に対するものを目覚めさせた。この2人の師、それから大田黒元雄先生が、いわゆる「粋」を教えてくださった訳で、あの先生は、面白いか、つまらないかしか言わないんですよ。持っていって弾くと、つまらないと思うと二階の自分の書斎に行っちゃうんです。すると、僕はえんえんと泣きべそかきながら弾いてなきゃいけない(笑)。面白ければ最後まで聞いてくれる。そういう良い指導者を得た、ということには僕は今でも感謝で一杯です。

日下部:はい、ありがとうございました。時間の関係で合唱は後の方にさせて頂いて、次に交響曲の方に参りたいと思います。交響曲は1番から6番までありまして、それ以外にももちろんオーケストラの曲はたくさんありますが、これは藤田先生から。

 

團作品はアヴァンギャルド

 

藤田:今、歌曲についての先生とか指導者といったお話がありましたが、オーケストラについては、近衛秀麿先生が、恐らくかなりの影響力を持っていたのではないかと思っています。交響曲に限らない話なのですが、日本では團さんという作曲家は保守的な人だという見方が強いですよね。はっきりいって、團さんは現代作曲家の枠からはずれている、といった見方をする人さえ、前衛が盛んだった時代にはいたんです。だけど、この前「ひかりごけ」が横浜で上演される時の座談会で、先日亡くなられた演劇評論家の尾崎宏次さんが、「團さんはアヴァンギャルドだ」といわれたんです。要するに、きちんとした伝統、過去、基盤というものがしっかりと身についていて、その上で新しいことをしていくのがアヴァンギャルドなんだ。もともないのに新しいことをするのはアヴァンギャルドでも何でもない。その意味で團さんは明らかに前衛だ、という言い方をなさったんです。これは素晴らしいことで、音楽界ではなかなかこういうことばは聞けません。團さんの交響曲は、まさにそれをはっきりと表したものではないかと私は思っているんです。また、交響曲というのは、確かに團さんのオーケストラに対する愛着や憧憬の産物でもあるのでしょうが、オーケストラ作品を書くことによって得られたものは、オペラの上にも必ず生きています。たとえば、「ひかりごけ」のオーケストレーションをみても、その前の4番、5番の交響曲なしには考えられなかったのではないかというくらい、密接な関係が見られんですね。團さんは、そういう交響曲とオペラという二つのジャンルを完全に両立させた日本では唯一の作曲家だと、私は思っています。それから、團さんの交響曲で忘れてならないのは、というよりもオペラも含めたオーケストラのすべてにおいてなのですが、そこでいたずらに邦楽器を加えたり、打楽器を必要以上にたくさん使ったりしていないということです。そして、ごくスタンダードな形を中心として、オーケストラを扱い、また、音楽の形式、フォルムを絶対に捨て去らず、むしろそれを基盤において書いていく。

まあ、フォルムの新しい在り方を追究していくといった方がよいかもしれませんが、それが交響曲の中でもずっと重ねられてきた。これは、絶対に忘れられてならないことです。

 

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藤田由之

 

 

 

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