でも、なんていうのでしょう、伸ばす音一つ一つ、それからもちろん旋律もそうですが、他の作曲家もそうですが、声を最大限に、非常な要求もその中に書かれておりまして、私は歌うたいですから学究的な分析はできませんけれども、それも同時に私のつたない頭の中で格闘しながら、実際の技術、書かれている心を考えて、とにかく一生懸命歌って参りました。
日下部:小山先生、その辺は?
小山:はい、私は團先生の歌曲にしてもオペラにしても、観客、聞き手としてずっと過ごして参りまして、その中でのことですが、例えば、私などは当初は申し訳ないんですが、作曲家の名前も知らずに親しんだのが「ぞうさん」であり、「花の街」だったんですよね。あのNHKの放送で流れた「花の街」をさんざん聞きましたし。で、ずっと後になって、あの時好きになっていた曲が、團伊玖磨先生の曲だったんだ、っていう風に。でも、一般の聞き手がおおかたそんなことじゃないかと思うんですね。それから私が長いことたくさん團先生の歌曲を聴かせて頂いて、感激することが多かったし、これは歌を歌われる声楽家のお力もあると思うんですが、端的にいえば、すごく都会的に洗練された美意識で書かれた曲、という感じがいつもします。そういう意味で私が一番好きなのは「東京小景」なんですが、それと「三つの歌」「美濃びとに」それから「ジャン・コクトーの詩による八つの詩」これが私の中で團伊玖磨歌曲のベスト4になっているんです。いずれも非常に酒落て洗練されていて、例えば「東京小景」なんですが、これは詩が大田黒元雄さんで、いってみれば都会の粋な旦那衆が作り上げた歌曲集という感じを私は受けます。ですからこれは本当に古めかしい言葉かもしれませんが、銀座で産湯をつかった人でないと、あの銀座とか日比谷っていう風情はちょっと出てこないんじゃないかと思います(笑)。