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現田:例えばワーグナーなんかも、全部神話から題材をとっていますから、そういう点でみたら日本の神話などは題材の宝庫だと思うんですね。それをとってきて、僕らは戦争を知らない世代なんですけれど、「まほろば」から連想されることも色々あると思いますが、いい話は残していかなくてはならない。「ヤマトタケルノミコト」にしても「因幡のしろうさぎ」にしても、僕らの世代はそういう良い話が削られている気がしてるので、残していかなくては、と思います。

日下部:私はこの7つのオペラの作品を並べてみると、團先生のテーマの作り方が一作品ごとに変わっていくというか、もちろん一貫したものはあるんですけれども、まあ、「夕鶴」からスタートして、いってみれば「夕鶴」は拝情の世界だと思いますが、そこから「聴耳頭巾」というフォークロアの世界に入っていく。それで「ひかりごけ」になると非情の世界といいますか、非常に、日本の常識からはずれるようなものを持ちこんでいる。さらに「ちゃんちき」では、ギリシャ劇が入る。で、この「素戔鳴」「建」は神話の話ですね、何かワーグナーを思わせるような。その辺の進み方が面白いというか、これは意識として一作ごとにやはりテーマ性を考えていらっしゃるのですか。

 

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日下部吉彦

 

“建・TAKERU”は現在の男

 

團:ええ、むろん無意識下に行われる作曲というのはない訳でして、何を書くかということは非常に大事で、そのためには何年もかかるような色々な文学作品や歴史を読み、その中から生まれてくる僕の音楽を考えながら、やはりしかし社会、現代の社会というものが聞いて下さるわけですから、そこへ何かのメッセージをこめたいと思うのは当然のことで、これは小さな歌曲でもそうです。僕が考えるのは、辛かったのは、そして難しかったのは、「素戔鳴」と「建」です。これはもう精魂すり減らすようなものでした。ことにまず脚本制作というものをやらねばならない。誰も書いてくれない訳ですから。ただそれが今おっしゃった古い皇国史観とかで全くないことに立脚しているんだということ、これは僕自身、戦争も、戦前も、そして戦後も知っている訳だから、今の僕として考えている。皇国史観などということは、皇国史観などと書く人より僕の方が知っている訳で、そういう風には全然発想のもとは全然なっていないですよ。それは聞けばわかるだけのことだと思うけど。やはり古語を用いるということにおいてだけで、大変抵抗があったようですね。しかし日本人が日本の古い言葉をわからないということはありえない。僕は全員がわかるものだと信じていましたから。それで今でもわかるべきだと信じているので、古いものを古語ですることは、ヤマトタケルが自分のことを「おいら」とか「僕」というようなことは僕のオペラではできない訳で。古語を用いることで、古語であるがために、現代語ではできない旋律が出てくる喜びも知ったわけです。またその男性的な力強さも古語であればこそ出てくるということも知ったし、色々な勉強になりました。ただ両方とも脚本には1年半、作曲に約2年使った訳です。そして「建・TAKERU」を作ってとうとう僕は倒れてしまったんです。今またそれをもって、次に何を書くかと言うことが一番頭を占めています。

 

 

 

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