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結局、精神医学的には、脳の病気とも何らかの精神疾患とも考えられない。人格障害のカテゴリーにも入らないという、何ともはっきりしない結果になってしまいました。

医師としては、やや無責任な発言のようではありますが、どこといって異常はみられないが、何となく職場にも居ずらいだろうから思い切って転職でもしてみたらといってみました。

ある意味では大変素直にこの発言を本人が受け入れ、依願退職して九州の実家へ戻りました。

遊んでいるわけにはいきませんが、いろいろ本人なりに考えて、他人の世話をすることが嫌いではないことから、地元の福祉関係の専門学校へ1年間通い、卒業後、そこで障害者の施設に勤めることになりました。

そこでは、極めて面倒みのよい介護職員ということで評判もよく、本人も生き生きと働き、本人や家族から前に入院した時の担当医にも無事に働いていると連絡もあってすでに何年かが経過しています。

 

考察

頻回欠勤、無断欠勤については、時々職場で問題になります。仕事にあながあくわけですから当然のことです。

この事例のように、人格的に問題はなさそうで、普段の仕事でも特に変わったところがないのに、ある日急に朝起きられない、電話もかけられないという状況がおこるということがあるわけです。

精神医学的には、うつ病でも神経衰弱でもない、人格障害でもないし、何らかの脳の病気ともいえない。周期的に起こってくる、一種の精神疾患という根拠も見出せないという。医師としても大変困った事例であったと考えられます。

結局は転職によってこのような状況から脱け出せたわけですが、強いて考えてみれば、本人も意識せず、また客観的にみても何かストレスがあったとは特定はできないものの、やはり、その仕事に本人が何らかの不満があって、結果的にはストレスとなっていたのかもしれません。

この事例では、自分の意思での転職が好結果をもたらしましたが、職場でも、本人に不満があったり、何かストレスを感じているというようなことがはっきりしなくても、場合によっては、本人の希望をよくきいてみて、配置転換の手段なども一つの選択になるかもしれません。

 

【参考】

第2巻 8 職場不適応とは何か

11 二次介入とカウンセリング・マインド

 

 

 

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