これとは別に、業務に関連して、あるいは業務中に、通常ではあり得ない突発的な出来事に遭遇して、それが、心身に大きな負担、強度のストレス状態を引き起こし、精神疾患の発症や自殺の引き金となったと考えられる場合があります。
これも例を挙げればきりがありませんが、大地震、洪水などの自然災害や火災、その他の大きな事故、テロなどの社会的な大きな出来事など、このような際でも、職種によっては昼夜を問わず業務を遂行しなければならないことが多いでしょう。個人の責任でない災害の発生という事情の時は労働災害の認定上十分に考慮されることが多いといえます。
業務上の対人関係の中で、直接の暴力行為を受けた、あるいはレイプ寸前の状況に追い込まれて、その後、精神疾患等、特にPTSDに近いような状態に陥った事例があり、本人の方に非がないと認められた場合は、労働災害と認定されたことがあります。
自殺事故については、自殺についての精神医学的な考え方については、すでに述べてあります。
自殺の背景に、精神疾患等の存在が疑われ、その精神疾患等が自殺事故との因果関係があり、かつその精神疾患の発症が業務過重と関連があるかどうかという判断が、労働災害認定上の問題になります。また精神疾患の存在が、明らかでない場合は業務過重があったということが、客観的に認められ、自殺の引き金になったかどうかということが慎重に判断されなければならないと思われます。
いずれにしても、労働災害と認定するに当たっては、単純に自殺を気の毒だからというようなことで左右されるわけにはいかないので、この辺は、いわゆるメンタルヘルス対策とは少し違うところがあるでしょう。
結局、労働災害と認定するには、その疾病の発症や自殺事故が、業務起因性であること、つまり業務過重があったということが、客観的に認められ、周囲も納得できるということが必要になってきます。ただ、これを客観的に証明するということになるとなかなか困難な問題があります。