日本財団 図書館


私が経験した試し出勤に似たような事例を一つ挙げておきます。

 

26才の某一流企業の技術職で未婚、家族関係は良好で、父は大学教授、母もキャリアーウーマン、本人は一流国立大学〜〜流という言葉を使うのは好きではないのですが慣例にしたがって〜を順調に卒業、就職もすぐに決まったという、いわゆる今まで壁にぶつかったことのない男性で、失恋をきっかけに、一種のパニック状態に陥ってしまった例です。

 

ここでは、この状況を説明するのが目的ではないので省略しますが、とにかく全く仕事ができなくなってしまい受診、表向きの病名はともかく、前に述べたピーターパン症候群に似たような不適応状態で、少なくとも精神疾患とは、考えにくいと判断しました。

しばらく自宅で休養したものの、本人に仕事への自信が出てこない。といって、このまま休ませていても前進はない。特に大きな異常があるわけではないので、職場のカウンセラーなどとも相談し、大学の先輩である上司に依頼して少し面倒をみてもらうことにしました。その課での定員外として出勤させ、チーム外で簡単な仕事をさせることで様子をみたのですが、それでも何かと不調を訴え、休みはしないものの保健室通いが頻繁という状況でしたが、結局は次第に調子を取り戻し、通常の勤務に戻ることができました。

 

この経過を詳しく述べるのが主旨ではなく、ともかくこのような対応ができたのは、会社が自分のところで採用した職員には責任を持つという姿勢で、定員外での出勤という形を認め、上司は、私が考えるのにはそれなりに大変であっただろうと思いますが、気持ちよく引き受けてくれたということが、本人の再起につながったという事例です。

実際はなかなか大変なことも多かったようで、完全に元の仕事に戻るのに一年近くかかり、上司や同僚の協力には頭の下がる思いですが、もちろん本人に回復するだけの力があったからでもありますが、何といっても上司の努力がこの結果をもたらしたと考えています。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION