日本財団 図書館


Aさんは、思い余って近くの神経科に行って診断を受けました。そこで、抗うつ剤を渡されましたが、父親が以前に自律神経失調症にかかり、薬を飲んでも治らなかったことがあったので、「飲むことには抵抗がある」といいます。「こういう不安な状態で職場に出ていくのがいいのか、それとも徹底して休んでしまったほうがいいのか。こんな状態が長く続けば銀行を辞めなければならなくなるという不安も強まっている」とAさんは訴えていました。

 

「この先が八方ふさがりではないことが理解できれば早期回復へ」

1] まずは「援助体制」をつくること

Aさんはプライドが高いエリート行員でしたが、これまでのようにうまくいかない状況に陥って自信喪失し、自分を追いつめてしまいました。新しい環境になじめなかったことや、直属の上司との関係がうまくいかなかったこと。それに加えて、家庭のほうもうまくいっていなかったこと。逆境に弱く、相談相手もいませんでした。

こうしたケースでは、キーパーソンである上司のカウンセリング能力が問われます。上司としては、Aさんが思い余って相談してきたときに、まずAさんとコミュニケーションをよく図るということがその後の対応を考えた場合、もっとも大切でした。リストラが進み、人員減になっている職場の状況下にあって、人をかばうようなゆとりはなかったかもしれません。とにかくもっと精神的に強くなってもらわなければという意味で「気持ちの持ちようだ」と激励したのかもしれませんが、こうした言葉では本人の不安をかえって高めてしまいます。

特に抑うつ状態に陥っている場合、自分がマイナスの状態から脱却できないことに対するあせりや不安に苦しんでいる人が多いのです。ここでは「君がこれまでに頑張ってきたことは認めているよ。ただ、長い間にはだれでも順調にいかないことにぶつかる。ここはとにかくあせらないでよい方向にいくことを考えよう。こちらもできる限り協力するから、何でも希望することを言ってくれないか」といった支持的な言葉がほしかったところです。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION