気持ちの余裕を失っているのが分かってもコントロールができず、ますますイライラして周りに当たったりしました。
そのころY氏には、体の変調も起こってきました。明け方にひどいめまいや動悸が起こり、呼吸困難のような状態も続きました。さらに、血圧の変動も激しくなったため、入院が必要というまでになりました。会社は1か月近く休みましたが、それでも状態は改善しませんでした。病院でいろいろ検査をした結果、「ストレス症状」と診断されました。ストレスが原因で体にまで影響が出るということは以前耳にしたことがありましたが、自分には無縁なことと思っていたY氏は驚きました。
そこで、いろいろと原因を考えてみたY氏は、プロジェクトがつぶれたことに対して「今も気持ちが割り切れないままにいる」自分に気付きました。
「開発に失敗はつきものです。そのプロジェクトは、社内から能力の高い人間を集めていましたので、みんなで『これだけのメンバーがそろっているのだから、必ず成功するはずだ』と言い合っていました。今でもそう確信しています。どうしても割り切ることができないんです」
「失敗招いたプロジェクト・マネージャーのあせり」
ただ、このプロジェクトは失敗するのではないかという一抹の不安を早い時期から皆が抱いていたことも事実だったようです。というのは、上の管理責任者のマネジメントのやり方に疑問を持つ人が多かったからです。集められた人数が100人で組織が大き過ぎるということもあって、上司がどういう考えを持っているのか分かりづらかったこともありました。一方で上の方も下のことがよく分からなかったようです。全社から光る人材を集めたといわれたわけだから、まずはプロジェクト・マネジャーがメンバーのキャリアや専門能力や考え方を知ることから始めるべきだったのかもしれません。
特に、研究開発では実験をしている現場の技術者がこの先にどういうことが問題となるかを最もわかる立場なのに、プロジェクト・マネジャーがそういう人たちの意見を吸い上げ集約しながら次のステップを提示するということを一切しなかったといいます。