またこれは、人と比較すべきものではなく、自分に与えられたものを十分に活かして生きようとする欲求であるとしました。つまり主体性を持ち、自分のありのままの姿を理解し、受け入れ、それをよしとして、その生き方を貫こうとする生き方を意味します。そしてマズローは、その「自己実現こそが人間の最高に価値ある欲求である」と位置づけました。
先程も述べましたロジャーズは、そのような人間観に根ざしたうえで、次のようなカウンセリング理論を展開しました。つまり「どの人も、自分の内面に自己実現の欲求がある。それらが何らかの障害でさえぎられ、阻止されたために相談にくるのだから、その阻止しているものをお互いの話し合いの中で打破できれば、相談者は自分の力で自己実現の方向へと向かっていく」というものです。それではここでロジャーズの人間観について、もう少し詳しく触れてみたいと思います。
エ ロジャーズの人間観
ロジャーズの研究者ハリー・ベレは、1980年に出版した“Basic Interest and Therapeuric Approach of Carl R. Rogers”のなかで、ロジャーズが生涯かけて大切にしたものが二つあると述べています。
その一つは、人間を理屈抜きに尊敬するということです。これはその人が社会通念に適合しているか否かとは別問題です。人間がその人なりのやり方で、人生を精一杯生きているということ自体を尊敬するというものです。
そしてもう一つは、どんな人にも成長力があるということです。ロジャーズは、人間はだれでも成長し立派に豊かになる資質をもっていて、毎日の生活はそこへ向かうものだと考えました。問題が出てくるのはその力が何等かの障害によって遮られたためで、だれかがそばにいて悩んでいるその人に心から耳を傾けて聴くことによって、その人は再び自分の力で前進していけるようになるとしました。