そこの部分を正しく理解しておかなかったために、カウンセリング・マインドを勉強した上司が、逆にコミュニケーション・ギャップを生み出してしまったというケースもあります。
ある職場では、仕事が集中している優秀な部下に対して、働き過ぎにならないようにと配慮して、上司が仕事を減らしました。上司は部下の過労にも気をつけなければなりませんから、一見すると、カウンセリング・マインドをもって対応したように見えます。しかしながら、この部下はもっと働きたいと考えていたために、「仕事を外された。この人に自分の昇進を妨げられるのではないか」と思い込み、逆にトラブルを生んでしまいました。
このケースでは、上司がまず部下の話や価値観を聞いたうえで対処していれば、無用なトラブルは避けられたはずです。
似たようなケースは、男性と女性の間のコミュニケーションでも起こっています。ある職場で、「新婚の女性を転勤させるということはかわいそうだ」ということで、上司が配慮してその異動を取りやめました。ところが、その女性は単身でも転勤を望んでいたために、トラブルが発生してしまいました。この例なども、一見カウンセリング・マインド的に配慮しているかのようにみえますが、実際には相手の価値観を十分に聞いていなかったためにトラブルが生じたのです。
どのような「配慮」も、まずは、相手の価値観やニーズを聞くということを前提にしなければ、本当の配慮とは言えません。
一人一人を尊重し、多様な価値観を認めていくことがカウンセリングの精神ですから、先入観を持たずに白紙の状態で、まず相手の話を聴いてみるということがポイントといえます。