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(3) 実践の経験の中から生まれたカウンセリング・マインド

ここではカウンセリング・マインドを実践するに当たって、もっとも大事な点のみ整理してみます。

カウンセリングを世界に広めたのは「クライアント中心療法」の創始者カールロジャーズ(Rogers,C.R.)です。ロジャーズは、これまでの伝統的な面接方法がカウンセラー中心に回っていることに疑問を感じて、真のカウンセリングはクライアントを中心に回らなければならないと考えました。カウンセラーの賢明さや知識をひけらかすような面接が効果的な援助を与えるものにはならないことを、ロジャーズ自身が経験したからです。

それは暴力をふるう息子の問題を抱えた母親とのカウンセリングでした。問題の一端は、その母親がその子の幼児期に拒否的な態度で接したことにあることは明らかでした。ところが、その母親に対して今まで話された事実を引き合いに出して、母親を傷つけない配慮もしながらいろいろ説明をしてみるものの、何らの理解がえられませんでした。ロジャーズは母親との面接を10回以上も繰り返した後に、とうとう匙(さじ)を投げて、「二人で一生懸命取り組んだがどうも失敗したようだし、面接を中止しましょうか」と提案しました。彼女も同意しました。しかし、母親は部屋を出るとき、振り返って、「先生は大人のカウンセリングはなさいませんか」と尋ねました。「やっていますよ」と答えると、「じゃあ、私受けてみたいんです」と、立ち上がったばかりの椅子にとって返し、夫婦関係が困難を極めていることを話しだしました。そこからが真のカウンセリングの始まりとなり、大成功を収めたというのは有名な話です。(ロジャーズ全集『カウンセリングとサイコセラピー」より)

この経験は、その後のロジャーズを「クライアント中心」の方向へ歩ませる契機となったといいます。何がクライアントにとって重大であるか、どんな経験を秘めているのかを知っているのはクライアント自身であること、クライアントが動いていく過程や方向を信頼するようにすることが重要である、との確信を育てていきました。

 

 

 

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