カウンセリングについて研究された書物としては、職業カウンセリング研究の草分けといわれるパーソンズ(F.Parsons)の『職業の選択』(1909年)が最初と見られています。カウンセリングの研究組織としては、米国心理学会に1919年に臨床心理学会のセクションができて、1952年にカウンセリング心理学会ができました。その後、カウンセリングは、治療的立場より予防的・開発的立場が重視され、主に「開発的カウンセリング」として発展してきました。その内容は、対人、対社会的関係にとどまらず、生活設計、人生設計、変化する職場への適応、職業の方向づけや意欲づけ、キャリア開発などきわめて幅が広く、あらゆる年齢層を対象として「その人の能力を最大限に発揮できるようにするための援助法」として活用されてきました。
80年代のアメリカでカウンセリングが飛躍的に発展したといわれます。現代社会の変化と特異性を「第三の波」という言葉で描写した社会学者のトフラー(A. Toffler)は、現代の社会がいかにカウンセラーを必要としているかについて、著書『第三の波』の中でこう強調しています。
「今日の高度な社会的、技術的混沌の中では、自己の生活を構造づけることは、本当に日ごと困難になりつつある。(こうした状況下で)何よりもまず簡単で手っとり早い解決策として、人生相談の専門家か準専門家による指導者集団を作るべきではないか。…専門用語を操るような精神治療医はもう十分である。もっと必要なのは、ほんのちょっとの手助けでいいから、われわれの日常生活を立て直してくれる人である」
日本でのカウンセリング研究者の草分けであった澤田慶輔東京大学名誉教授(筆者の主催する日本産業カウンセリングセンターの発起人の一人)が大きな影響を受け、その後はカウンセリングを実践する際の一つの信条としたという考え方に、アメリカの心理学者タイラー(Tyler)の「極小変化セラピー」(1958年の米国心理学会で発表)があります。これは、「来談者の動きの心理的方向が現在10度だけ変われば、1000マイルの旅程では170マイルの違いが生ずる」という考え方を基本とするものです。