待(ま)ちぼうけ (詩・北原白秋)
待(ま)ちぼうけ、待(ま)ちぼうけ。
ある日(ひ)、せっせこ、野良(のら)かせぎ、
そこへ兎(うさぎ)が飛(と)んで出(で)て、
ころり、ころげた
木(き)のねっこ。
待(ま)ちぼうけ、待(ま)ちぼうけ。
しめた。これから寝(ね)て待たうか。
待(ま)てば獲(え)ものは駆(か)けて来(く)る。
兎(うさぎ)ぶつかれ、
木(き)のねっこ。
待(ま)ちぼうけ、待(ま)ちぼうけ。
昨日(きのう)鍬(くは)とり、畑仕事(はたしごと)、
今日(けふ)は頬(ほほ)づゑ、日向(ひなた)ぽこ、
うまい伐(き)り株(かぶ)、
木(き)のねっこ。
待(ま)ちぼうけ、待(ま)ちぼうけ。
今日(けふ)は今日(けふ)はで待(ま)ちぼうけ、
明日(あす)は明日(あす)はで森(もり)のそと、
兎待(うさぎま)ち待(ま)ち、
木(き)のねっこ。
待(ま)ちぼうけ、待(ま)ちぼうけ。
もとは涼(すず)しい黍畑(きびばたけ)、
いまは荒野(あれの)の箒草(ほうきぐさ)、
寒(さむ)い北風(きたかぜ)、
木(き)のねっこ。
中国地方の子守唄 (民謡)
ねんねこしやつしやりませ
寝た児の可愛さ
起きて泣く児のねんころろ、
面憎さ。
ねんころろん、ねんころろん。
ねんねこしやつしやりませ
今日は二十五日さ
明日はこの児のねんころろ、
宮詣り
ねんころろん、ねんころろん。
宮へ詣ったとき
なんと云うて拝むさ
一生この児のねんころろ
まめなように、
ねんころろん、ねんころろん。
城ヶ島の雨 (詩・北原白秋)
雨はふるふる、城ヶ島の磯に、
利休鼠の雨がふる。
雨は真珠か、夜明けの霧か、
それともわたしの忍び泣き。
舟はゆくゆく通り矢のはなを
濡れて帆あげたぬしの舟。
ええ、舟は櫓でやる、櫓は唄でやる、
唄は船頭さんの心意気。
雨はふるふる、日はうす曇(ぐも)る。
舟はゆくゆく、帆がかすむ。
箱根八里は (民謡)
箱根八里は
馬でも越すが
越すに越されぬ
大井川。