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この道(みち) (詩・北原白秋)

 

この道(みち)はいつか来(き)た道(みち)、

ああ、さうだよ、

あかしやの花(はな)が咲(さ)いてる。

 

あの丘(をか)はいつか見(み)た丘(をか)、

ああ、さうだよ、

ほら、白(しろ)い時計台(とけいだい)だよ。

 

この道(みち)はいつか来(き)た道(みち)、

ああ、さうだよ、

お母(かあ)さまと馬車(ばしゃ)で行(い)つたよ。

 

あの雲(くも)はいつか見(み)た雲(くも)、

ああ、さうだよ、

山査子(さんざし)の枝(えだ)も垂(た)れてる。

 

ペチカ (詩・北原白秋)

 

雪(ゆき)のふる夜(よ)はたのしいペチカ。

ペチカ燃(も)えろよ。お話(はなし)しましよ。

むかしむかしよ。

燃(も)えろよ、ペチカ。

 

雪(ゆき)のふる夜(よ)はたのしいペチカ。

ペチカ燃(も)えろよ。おもては寒(さむ)い。

栗(くり)や栗(くり)やと

呼(よ)びます。ペチカ。

 

雪(ゆき)のふる夜(よ)はたのしいペチカ。

ペチカ燃(も)えろよ。ぢき春来(はるき)ます。

いまに楊(やなぎ)も

萌(も)えましよ。ペチカ。

 

雪(ゆき)のふる夜(よ)はたのしいペチカ。

ペチカ燃(も)えろよ。誰(だれ)だか来(き)ます。

お客(きやく)さまでしよ。

うれしいペチカ。

 

雪(ゆき)のふる夜(よ)はたのしいペチカ。

ペチカ燃(も)えろよ。お話(はなし)しましよ。

火(ひ)の粉(こ)ぱちぱち、

はねろよ、ペチカ。

 

からたちの花(はな) (詩・北原白秋)

 

からたちの花(はな)が咲(さ)いたよ。

白(しろ)い白(しろ)い花(はな)が咲(さ)いたよ。

 

からたちのとげはいたいよ。

青(あお)い青(あお)い針(はり)のとげだよ。

 

からたちは畑(はた)の垣根(かきね)よ。

いつもいつもとほる道(みち)だよ。

 

からたちも秋(あき)はみのるよ。

まろいまろい金(きん)のたまだよ。

 

からたちのそばで泣(な)いたよ。

みんなみんなやさしかったよ。

 

からたちの花(はな)が咲(さ)いたよ。

白(しろ)い白(しろ)い花(はな)が咲(さ)いたよ。

 

曼珠沙華 (詩・北原白秋)

 

GONSHAN、GONSHAN、何処(どこ)へゆく、

赤い、御墓(おはか)の曼珠沙華(ひがんばな)

曼珠沙華(ひがんばな)、

けふも手折りに来たわいな。

 

GONSHAN、GONSHAN、何本(なんぼん)か、

地には七本、血のやうに、

血のやうに、

ちやうど、あの兒の年の数(かず)。

GONSHAN、GONSHAN、気をつけな。

ひとつ摘(つ)んでも、日は真昼、

日は真昼、

ひとつあとからまたひらく。

GONSHAN、GONSHAN、何故(なし)泣くろ。

何時(いつ)まで取っても、曼珠沙華(ひがんばな)、

曼珠沙華、

恐(こは)や、赤しや、まだ七つ。

 

 

 

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