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日本太鼓と学校教育−1]

 

文部省の「学習指導要領」の改訂により、2002年から中学校の音楽時間において和楽器を3学年通じて1種類以上学習することが義務づけられます。このため、日本太鼓と学校教育の関わりについて実情を把握し、今後、学校での日本太鼓の普及に役立てるため、各地の学校で日本太鼓の指導を行っている方々の声を反映した「日本太鼓と学級教育」を今月号からシリーズとして掲載することになりました。

今回は、県内の小・中・高校で年に3〜5回公演を行い、不登校児を対象にした教室も開いている宮崎県の橘太鼓「響座」のリーダー岩切邦光さんから寄稿していただきました。

 

「汗をかき/本音で話す」

橘太鼓「響座」 岩切邦光

県内各地の幼稚園や小・中・高校に呼ばれて公演する機会が増えてきました。初めの頃は「なぜ」という気持ちがありましたが、最近は少し分かってきたような気がします。

学校では、子供たちの後ろから、太鼓を打ち鳴らして入場します。突然の登場に友達同士顔を見合わせて笑ったり、手で耳をふさいだりなど、初めて聴く太鼓の音に戸惑う子供もいます。そんな反応を無視するかのように、演奏は延々30分続きます。

前半の演奏が終わるとあいさつをします。力一杯太鼓を打ち鳴らした私たちは、全身汗でぐっしょり。バケツで水をかぶったような私たちを前に、子供たちの表情が変わり、ふざけていた子の目が輝きます。感動の一瞬です。

演奏の後は子供たちの出番です。舞台上で思いっきりバチを振り上げる子、楽しそうにリズムをとる子。会場の雰囲気が和んだところで、私自身が若き日の苦い思い出―本気で生きること、夢を持つ大切さを語ると、子供達の表情は真剣になります。

締めくくりは再び「響座」による太鼓の演奏です。すっかり打ち解けた子供達は握手を求めたり、「響座」のメンバーを志願したりする子供もいます。後片付けも率先して手伝ってくれ、わずか数時間で子供の変化が見られるのは何より嬉しいことです。

近頃は、汗をかき、本音で話すという機会が減っているのではないでしょうか。その責任は学校にも、親にもあると思います。

汗をかき、本気で子供と接するということは難しいことであり、恐いことでもありますが、案外気持ちがいいものです。

先日、国際交流基金主催でトルコ公演を行った際、外国の地で生きる日本の子供達の様子を知りたくて、イスタンブール日本人学校を訪れました。

その学校の生徒は65人、教師14人。教室も運動場も狭く、そんな恵まれない教育環境に反して、子供達の心はとても大きく感じました。

さらに驚いたことに、授業に和太鼓を取り入れ、全校生徒の約半分の生徒が太鼓を叩いており、生徒達の演奏を聴いてみると、とても上手なのです。この和太鼓を授業に取り入れた目的は、太鼓を通して、日本の伝統文化の素晴らしさ、故郷の大切さを学ぶとともに、感受性豊かな心を養うことだそうです。

異国の地で日本人の誇りを持ち、力強く生きる子供達の姿に感動しました。そして、「一生懸命に生きる」意味と日本の子供や大人達の多くが忘れかけている大切なことを考えさせられました。

また、日本人学校における太鼓教室での子供達の熱心さに感動し、少しでもお役に立とうとチャリティーコンサートを開催しました。その基金で得た太鼓4基をアンカラ日本人学校に寄贈しました。本学校には、太鼓を指導できる先生が音楽担当として4月に赴任し、これから益々太鼓の輪が広がることと思います。そして、私達も機会があればもう一度訪れたい気持ちで一杯です。

 

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(日本人学校で太鼓を指導する岩切氏)

 

学校教育と日本太鼓の関わりを深めていくためには、各市区町村の教育委員会や学校音楽担当の先生と日頃から緊密な連携をとり、太鼓の効用を理解してもらう草の根運動が効果的であると考えられます。

※シリーズに対する皆様からの寄稿をお待ちしております。

 

 

 

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