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犯罪被害者の受ける心的外傷について

−精神科医の視点から−

(運営委員) 鶴賀病院 鷲塚昌一

 

(一) 心的外傷について

心的外傷の研究は、すでに一〇〇年以上も前一八九〇年前半の時期に、ヒステリーの病因を心的外傷であると考えていたフロイドによってはじめられています。その後この研究は時代と共に変遷しておりますが、心的外傷後ストレス障害(PTSD)という診断名を精神科医が用いはじめました。それは米国におけるベトナム帰還兵の社会的不適応や、強姦や性的虐待など性暴力の被害者の精神的後遺症について、その現実を社会に認知させ、被害者を援助する運動がアメリカの女性グループによってはじめられたあとの一九八○年になってからであります。

日本では一九九五年一月の阪神淡路大震災のあと、急性のショックがいったん克服されたかにみえたのち、二〜三ヶ月の時期をおいて地震のときの強い不安が生々しく蘇えってくる人が多くみられたことから、はじめて継続した心のケアの重要性についてマスコミでも取り上げられPTSDという障害が多くの人にも知られるようになりました。

 

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(二) 電話相談の必要性と問題点

日本で組織的な電話相談が開始されたのは一九七一年の「いのちの電話」が最初のようですが、電話相談というのは、さまざまな不安を抱えた人が、自発的にしかも匿名で心の悩みを、ありのままに思いのたけを吐き出せるという特徴があります。この電話相談を活用し大きな効果をあげたのが、阪神淡路大震災における臨床心理士会のはじめた電話ホットラインの開設であります。

予想をはるかにこえる利用者があり、この電話による話し合いによって相当多数の人々の不安を静めるのに役立ったといいます。

長野犯罪被害者支援センターでも開設以来数多くの電話相談を受けておりますが、電話相談員の研修の一端を担った筆者の感じた問題点を述べてこの稿を終えたいと思います。

 

(イ) 多くの相談者は電話相談によって、ある程度の安心を得られるようですが、病的水準が深い人からの相談や、或はあまりにもつらい話の内容にひきこまれて相談員自身の心が不安定になることもあります。

こういう時はスーパバイザーを交えてのカンファレンスが必要になります。また、時には相談者に専門家を紹介することも必要になります。

 

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(ロ) 医療機関やその他の相談機関に対する苦情や抗議に対しては必ず経験の深い方の助言を相談員は受けたほうがよいと思います。

 

(ハ) 相談者の話されることに感情移入しすぎて救済者願望に陥り、深入りしすぎないことも大切です。(例外はありますが)

依存心を助長し、相談者が自ら持つ回復力やその経験を通して自ら成長する機会を奪うこともあることを承知して下さい。

 

 

 

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