日本財団 図書館


恐ろしい思いをして傷ついた私が、なぜ追いつめられなければいけないのだろうか。

警察も学校も、その時の状況やとっさの出来事で無我夢中だったことを、本当に理解してくれていたのだろうか。興味半分にいろいろな人がこの事件のことを分析し批評する。その事で、もっと苦しい思いをする人間がいることなど気にもせず、他人事だから、おもしろがる人もいたのだ。他人の痛みは分からないのだから私と同じような経験を持っている人は、皆同じような思いをしているのではないだろうか。被害に遭った人が、少しでも早く精神的に立ち直ることができるようなケアを一番先にすべきなのに、その事をおきざりにしている気がしてならない。このような事件がくり返されることのないよう勇気を持って報道しているのだから、被害に遭った人が少しでも精神的に楽になれるよう、人としての権利を優先にして対応してほしいと思う。

本当は学校を休みたくて仕方なかったが、休めばもっと行けなくなると思い、とりあえず私は頑張って登校した。一ケ月以上も早退する日は続いたが、養護の先生はいつも穏やかに接し、私の苦しみを真剣に聞いてくれ、母も説教めいたことを言わず、「迎えにきて。」と電話すると、毎日すぐにかけつけてくれて本当にありがたかった。

そして、このままではいけないと悩んだ私は夢中になれるものを探した。そして、中学受験を思いついたのだ。決心したのが受験日の一ケ月前。当然時期的には手遅れだったが、両親は、「納得できるまでやってみなさい。」と賛成してくれた。急きょ塾に入って、私は一生懸命勉強に励んだ。今振り返っても、あれほど夢中になって勉強したことはなかったと思う。

案の定結果は不合格だったが、私の心の中は一つの区切りがついたようなすっきりした気持ちになっていた。そして卒業するころには立ち直ることができて、友達とも、今までどおり普通に生活できるようになった。

今でも当時のことを覚えている人に、「そういえばあの事件どうなった。」と聞かれる。そう言われる度に心がズキンとするが、ようやく何とかかわすことができるようにまでなった。

このような体験を通して、私は、被害に遭った人がどれだけ苦しんでいるかを配慮した上での対応が十分にできる社会が一日も早く訪れることを強く望んでいる。

 

(本文は、仙台法務局・宮城県人権擁護委員連合会の協力の下に掲載するものです。)

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION