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特殊性を解消し一般的な状態に戻すこと(他の生徒と同じように登校すること)を性急に求めるのが個々の事例に即した対応であるとは言えませんが、とにかく児童や生徒にかかわらなければならないという熱意があったように思います。このごろはどうでしょうか。例えば何週間にもわたって不登校の子どもがいる家庭と学校の連絡が途絶えていたり、授業で配布したプリントが届けられるだけになっている事例が散見されるようです。印象として、学校や保護者など関係者の対応の背後に、大人全体や社会が不登校の事例に慣れてしまい、以前と比べるとひとりひとりの不登校児童への関心が薄れてしまっている雰囲気があるように感じられます。(不登校の増加など、現象そのものについては関心が低くはないという奇妙な状況があるのではないか、と感じてしまいます)今の日本では不登校はよくある現象なのでしょうが、ひとりひとりの子どもにとっては極めて個人的で大切な問題であることは、不登校の全体数が多かろうと少なかろうと変らないはずです。もちろん熱意や関心だけで子どもとのかかわりがうまく行くわけではありませんが、適切な対応を考えようとする原点になるはずです。

分かりやすくするために断定的な言い方をすれば、一方では感情的な反応を主体とした特殊事例の一般化があり、他方にはかつての特殊事例が一般性を帯びたことに伴う個々の事例に対する関心の希薄化が認められると言えないでしょうか。この二つの傾向は児童や青年の問題に限らず、政治や経済などのさまざまな社会にかかわる領域で起こりうることなのでしょうが、いずれの場合でも個別性を理解しようとする態度が不充分になる可能性があり、全体状況を現実的に判断することにも失敗しかねないと思われます。

全体的には日本の少年非行・犯罪は安定傾向にあるそうです。また、多くの非行少年は更生し成人後に犯罪に至ることが少ないため、二十代前半の若年成人の犯罪は工業先進国のなかでも少ないそうです。この事実は、保護主義を中心にすえた日本の少年法のもとで現場の実務家が長年にわたって職務に励んできた成果を示しています。被害者やその関係者の人権尊重などの面での問題が明らかになっていますがそれはまた別の問題であり、基本的には大部分の事例に対しては教育・矯正が有効だったことを証明していると思われます。もちろん最近の「17歳」の少年犯罪について詳しい検討が望まれるでしょうが、全体の状況はそのこととは区別して把握されるべきでしょう。

結局さまざまな課題が整理されていくべきなのでしょう。犯罪被害者に対しては、法制度の確立・補償などが積極的になされるべきです。少年非行・犯罪全体の状況の把握はそれ自体の問題として考えられるのが適切で、まず保護主義を中心とした対応の有効性がきちんと評価されなければならないでしょう。問題がある事例については個別的な検討が必要だと思いますが、少年たちの理解を深めることと同時に、事件に至るまでの間に援助や相談につなげる機会が持てなかったのかどうかが重要だと思います。学校などで問題点や何らかの「サイン」は本当になかったのか。本人が問題を訴えず援助を求めなかったとしても、親や関係者が相談機関と接触を続けながら本人の理解を試みたり適当な時期に専門家や機関がかかわる機会をつくることはできなかったのか。既存の行政や教育・保健医療など相談の「システム」の充実や専門家の育成と連携を充実させる必要があるのではないか、といった議論が出てきてもよいはずです。仮に最近の「17歳」事件に従来にはない新たな特徴があったとして、それに対応するための新しい取り組みが必要ならば、それは個人や関係者にとってどのような(潜在的な需要を含む)援助が必要なのかという問いから導き出されるものでしょう。

 

 

 

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