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相談室の方とお話すると皆さん同じようにそのことを悩んでいるようですが、これは何か相談室に相談員の能力が足りないという問題ではないと思います。むしろそれは日本の犯罪被害者援助の現状を示していると思います。つまり、様々な援助のどれもが質、量ともに足りないということでしょう。

精神的援助という面だけに限っても、例えばPTSDの治療というようなレベルではこれはやはり専門家の領域に属することであって、ボランティア活動で出来る範囲は超えていると思います。精神的な援助の中でもおそらく危機介入と窓口としての紹介機能というのが、このような形のボランティアの相談機関にふさわしい仕事でしょう。ところが、では法的な問題はここでは扱えないから誰かに紹介しよう、それからPTSDの治療が必要だから誰かに紹介しようと思っても、現在のところはそういう専門家の数が全然足りない。これも被害者相談室自体の問題ではないわけですけれども、実際の相談の中ではたぶん大きな問題になってきていることだと思います。つまり、本来の活動をしようとしても、周囲の事情がそれを許さないわけです。困って当然なのだと思います。とりあえずは、自分がそういう状況にあることを認識することが必要だと思います。ボランティアで参加して下さっている人は、とても親切な方が多いので、つい「自分の力が及ばないから」と考えがちです。でもこれは構造的な問題です。言い換えると何々が出来ない、というのではなくてここで出来ることを考える、ということは特にボランティア活動を長く続けていくためには必要なのではないかなと。実はこれも私もここの活動を見ながら教えてもらったことでもありますけれども、例えば法的援助が出来ない、專門知識がないから出来ない、それから人が足りないから出来ないというふうにいうことも勿論出来ます。それも間違いではありませんけれども、例えば少なくとも専門家でなくても被害や被害者のことに関心を持っている人がいるという事を伝えること、それからいろいろな援助があるんだという事を伝える事、そこにどうやってアクセスしていいかを伝える事、例えばPTSDの治療は電話では私はできないと思いますけれども、ここは電話があるからこそ最初のその入口になることです。その上に大阪被害者相談室の活動のオリジナリティというのをよく考え、強調していくという事が大事なのではないかと思います。

 

私も今まで8年間、被害者援助活動をしてきたわけですけれども、最初は私のほうが大阪被害者相談室の先輩だと勝手に思っていたんですけれども、これが例えば58周年と55周年を迎えるとですね、そんなに両方とも変わらなくなるわけですね。「蓄積」ってとても大事なことだと思います。今何か一言で言いたいことがあるとしたら、それはどんな人にも援助のできる事には非常に限界がある、ある人が誰かを助けることで出来る事は非常に少ないという事です。

 

 

 

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