「被害者に優しい街づくり」
大阪府警察本部被害者対策官 清水訓夫
大阪では、昨年一年間に警察が知り得ただけで約25万件の刑法犯事件が発生し、6万件を超える交通事故によって、7万5千人以上の方々が死傷しております。毎年繰返されるこのような膨大な量の事件・事故によって、心に深い傷を負った多くの被害者が地域社会に埋もれ、あるいは周囲の人々の不用意な言動や好奇の目に晒されながら、苦悩の度合いを深めています。
こうした中、大阪被害者相談室が、1996年4月の開設以来、堀河代表を初めとするひたむきで熱意溢れるスタッフの皆様のご活躍によって、大阪はもとより全国の被害者支援のネットワークの中枢に位置して、被害者支援活動の各般に取組んでおられますことに深甚の敬意を表する次第です。
ところで、被害者を支援する各種の制度は、被害者ご自身の先駆的なご努力と、これを支援する多くの人々の活動とが相まって、近年、急速に進展しつつあります。将来的には被害者の同意があれば、全国的にネットワークされた要員によって、均質かつレベルの高いケアー(またはその情報)にタイムリーに接することができる支援体制を目指そうとしています。そのためには、未だ超えるべき幾つものハードルがあることも事実ですが、大阪被害者相談室の皆様が、こうした先進的な支援体制の実現に極めて近い位置におられることは間違いのないところであり、引続きのご活躍を期待しております。
国レベルの動きとしても、先の「犯罪被害者等給付金の支給等に関する法律」に、「犯罪被害者等早期援助団体」(第23条)関連の規定が盛込まれ、このような支援のあり方の将来展望を前提とした改革が進められています。いずれにしても、被害者支援は、従来の待ち受け型の形態から、より能動的なものへと転換が図られつつあります。
このような被害者支援体制の整備と並行して、今ひとつ重要な課題は、「被害者に優しい街づくりを市民運動のレベルにまで盛り上げる」ための取組みではないかと考えます。つまり、犯罪被害の惨禍と被害者の立場を慮り、「誰もが人間らしく生きる」ことへの意識が充ちた地域社会を目指す取組みです。
すでに、全国各地で、被害者の支援に関するシンポジウムやフォーラムが開催され、マスコミの協力もあって、多くの市民が、関心と問題意識をもちつつあります。しかしながら、地域社会の日常の場面において、いざ具体的な被害者支援を考えようとすると、被害者への偏見や無関心は論外として、「誰に対して、何を、どのように」といった戸惑いや、被害者への無用な身構え、あるいは自らの支援技量に対する不安感等を感じるような状況も見受けられるところです。被害者支援をもっと分かり易く、市民の身近なものにするための知恵を持ち寄ることが必要ではないでしょうか。