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そのうえ、個々の被害者の事情に適した支援が求められるが、このような被害類型と、被害者ごとの個別事情に適合した支援ができるスタッフと計画を伴った被害者センターが必要となっている。そこでは、さらに専門スタッフが必要となるだけでなく、篤志家のトレーニング・プログラムの用意も欠かせない。

加害者との交渉、加害者に対する損害賠償や刑事責任の追及に要する被害直後の証拠の保全から始まって、被害者が自分の落度を認めようとする意識からの解放の手助け。さらには、被害以降の生活を日常的に支える人間関係の立て直しへの手助け。犯罪捜査、訴追、公判の各過程で被害者の落度に目を向けたり、被害者の証人利用だけに関心をもつ刑事法運用従事者との未経験の出逢いで、さらに傷つけられることのないように、もっぱら被害者の側に立って手助けをすること。被疑者の側に立って、被害者の落度を見出そうとする正当な活動を果たす被疑者、被告人の弁護人や民事手続きでの弁護士との交渉での難渋に対処できるようにする手助け。被害から生じた心の傷の後遺症に対処する手助け。こういった複雑で、時には相矛盾する手助けを的確に提供できるチーム・プレーを可能にする仕組みや施設が用意されなければならない。

このような仕組みや施設には、今の世論や警察刷新会議の勧告によれば、困り事相談対応という形で警察や、全ての犯罪被害一般に対応する被害者支援センターが想定されている。

わが国の被害者対策の関心の程度では、このような要求も理解できるが、このような要求は、被害者支援計画への要求としては、序の口でしかない。

さて、警察、検察、裁判所にも被害者が、そこで更なる被害や不利な取扱いを受けないような十分な配慮が求められるが、実は、とりわけ警察の捜査、犯罪抑止の役割が強調されて展開されると、被害者の利益をもっぱら守る役割とは相矛盾することは偶ではない。

ところで、被害者支援には、警察や検察のもつ情報が欠かせない場合も多く、逆に犯罪の摘発、解明、犯人の発見には被害者側のもつ情報が不可欠となる。そこで、一定領域と限度で両者が情報を提供し合い共有することができるのが望まれる。したがって、刑事法運用機関と被害者支援施設が必要な情報を共有し、情報を相互に交換し、しかも、夫々が独立した立場で、それぞれの果した役割を果たす、拮抗するが協力するという複雑な関係を作り出さなくてはならない。被害者の支援の役割は警察に求めず、支援センターに求め、犯罪の摘発、解明の役割は警察に求めるべきである。このような関係から、警察活動の透明度も信頼度も高まり、他方、被害者支援の質も大幅に向上するだろう。

それに要する費用は、犯罪収益と犯罪のため、又はそれによって蓄積された資産の没収や高額罰金を中核とした被害対策基金によって賄われるのが筋である。それに、被害者支援は志気の高い人々で行われなくてはならないので、篤志家の支えが必要である。だが、志の高い人々に無料奉仕を求めると、制度の持続力と質は低下せざるをえない。

国家や政府への期待は程々にして、今やそれとは独立した被害者の立場にもっぱら配慮する、個別的な要求に適した支援が十分にできる民間施設が数多く創立され、支援が日常のものとなり、それを通して、住民の連帯が再生するような計画が、国家の政策上の重要な計画となる時期はすでに来ている。

 

 

 

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