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被害者支援の輪を広げよう

 

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東京都知事 石原慎太郎

 

東京は日本の首都として、日本の頭脳・心臓の役割を果たすため日夜活動しています。東京がこうした機能を安心して果たすことができるのは、世界から安全な都市と言われているように、警視庁の皆さんをはじめ、全国の警察官の地道な活動によって犯罪を抑止し、治安を維持していることによるものです。

しかし、昨今の東京では、暴力団や暴走族などによる凶悪な犯罪や不法入国・不法在留している外国人による犯罪、ストーカー・痴漢の卑劣な行為などによって、都民の生命や平穏な生活が脅かされています。

平成十二年には、都内で殺人や強盗などの凶悪犯罪が一、六一〇件、暴行・傷害などの粗暴犯罪が八、五六四件、その他の犯罪を合わせると、二九万一千件余の犯罪が発生しています。

こうした憎むべき犯罪に、不幸にも突然巻き込まれてしまった被害者の方は、肉体的に傷を受け、あるいは経済的な損失を被るのみならず、その精神的な苦痛は計り知れません。また、ご家族あるいはご遺族の皆さんも被害にあわれた方と同様の苦しみの中にいることと思います。地域のコミュニティーが薄れている今日、地域の皆さんが被害を受けた方に対して同情の気持ちを持っていても被害者の方には伝わりにくく、また、会話の内容によっては逆に被害者の気持ちを傷つけてしまうこともあり、被害者の方が地域の中で孤立感をもって過ごされていることは否めません。

こうしたことから、昨年四月、犯罪や交通事故の被害者とそのご遺族の方に対して精神的な支援活動などを行うとともに、都民の被害者を支援する意識を高め、被害者の被害の回復や軽減を図ることを目的として、被害者支援都民センターが設立されました。

センターでは、相談員や精神科医、心理カウンセラーなどの専門職員が、電話相談や面接相談等を行っており、昨年四月のセンター開設時から、本年二月末日までに、一、六二四件の電話相談と、二四四件の面接相談を行ったと伺っています。また、直接的支援として、被害者宅への訪問や裁判所、警察、病院等への付添いなどを行うとともに、事件直後から情報の提供、相談、生活支援などの援助を行い、被害者の精神的な痛みを和らげ立ち直る手助けを行っています。さらに、被害者や遺族の方への交流場所の提供、自助グループ活動等への協力支援やボランティア養成セミナーの開催など、積極的に活動しています。

設立後間もないセンターですが、今後とも、被害者の支援を行っている各種団体の中心的存在として、不幸にも被害にあわれ、悲しみ苦しまれている方たちの立場に立った適切な支援を行い、被害の回復や軽減を図ることにご尽力いただくことを念願しています。

終わりに、被害者支援都民センターの一層のご発展と、皆様のご活躍ご健勝を祈念いたします。

 

被害者の立場に立つ支援計画

 

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中央大学教授 渥美東洋

 

二〇世紀末の昨年、被害者支援都民センターの創設とともに、被害者給付金の拡大計画が示され、被害者の少年手続を含む刑事手続きでの関与を一定限度で認める制度が法定された。

今日では、被害者支援の必要は大方の理解を得るところまできた。この段階で、被害者が受けた個別、具体的な物心両面に亘る災禍から立ち直るための具体的方策の充実に、人々の関心が移ることを強く望みたい。

さて、犯罪被害はおよそ一様ではない。財産犯と家庭内暴力の間では、被害感情は大きく違う。暴力事犯と精神上の苦痛を生む侮辱や人格無視の場合では、異なった被害実態に直面する。さらに暴力事犯でも、性暴力と抑圧、圧政の暴力の影響は異なる。被害の内容、性質ごとに、それに適した支援が求められる。

 

 

 

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