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そして被害者の心療カウンセリングを専門とする女性の先生に、心の中に溜(た)まっていたあらゆる気持ちを初めて聞いてもらうことにしました。

カウンセリングでは、専門家に毎回一時間程度話を聞いてもらって、とにかくあらゆる気持ちを「吐き出す」という作業をします。身内や親友には気を遣って言えない事も、プロだから誰にも口外しないという前提で、ようやく自分の気持ちを洗いざらい言える場所を見つけられた気がしました。先生は初老のとても柔和な方で、私がかなり激しいことを言っても、「うん。うん」と、ひたすら聞いてくれます。反論をされるわけでもなく、諭(さと)すわけでもなく、まさに「寄り添う」という言葉がぴったりのような気がしました。ただ、そこに居てくれて、ありのままの自分を受け止めてくれる、それだけでとても楽になるような気がしました。

事故から十一ヵ月以上たった現在も、二週間に一度のペースで、先生にいろいろと話を聞いてらっています。もう大丈夫、と勝手に判断して途中でやめてしまわないで、継続することがとても大事だそうです。医者に定期検診を受けるようなものだと思って、少なくともあと一、二年は続けようと思っています。

『被害者支援都民センター』でのカウンセリングは無料です。もっと多くの被害者の方に、こういうサービスが気軽に受けられることを知ってもらえたら良いのにと思います。ただ、どうしても被害者、あるいはその身内の方の中には、カウンセリングを受けるということに対して抵抗を覚える人が多いようです。「私は大丈夫」、とか、「カウンセリングなんか受けるほど私は気が狂っているわけではない」などと思わずに、本当に気軽な気持ちで足を運んでもらえると良いのにと思えてなりません。

また、都民センターで開かれた自助グループに数回参加しましたが、どのような人が来ていたか、どんな話がなされたかは、絶対に言ってはならないことになっています。そういうルールが守られないと、せっかく人には言えない心情を吐き出そうとしているのに、それさえも暴露されてしまうという、最も望ましくない結果を招いてしまうからです。

 

事例2 家族からの相談

高校生になった娘が通学途中にレイプされました。被害届を出しましたが、検察庁では証拠不十分で、青少年育成条例違反という罪名のみで起訴されました。その後、娘は自暴自棄となり、非行グループの仲間と恐喝をするようになってしまいました。

 

このように、被害者が加害者となってしまったケースである。

母親は、夫の発病から離婚に至るまでの経緯や、子育ての苦悩を語りながら、なぜこのような目にあわなければならないのかと、涙ながらに心痛を訴えた。

しかし、カウンセリングの回を重ねるに従って、夫婦間の問題等で自分の心が奪われ、気持ちにゆとりがなかったとはいえ、「子どもに対して本当に愛情を持って接していただろうか」ということに気づいてくれた。その頃から娘の生活態度にも自然に変化がみられるようになり、現在では落ち着きを取り戻している。

 

性被害は、本人にとって大変重い問題であり、表面的には何事もなかったように見えても、実は心に深い傷を受けている。身近なところでは、母親の支えが必要なことはいうまでもないが、この母親のように、母親自身にもトラウマがある場合、母親の気持ちに添って十分傾聴し、受容と共感を持ってカウンセリングを継続していくことが大切である。

 

 

 

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