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被害者支援の歩み

 

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被害者支援都民センター理事長

日本被害者学会理事長

国際犯罪学会副会長

中央大学総合政策学部教授

宮澤浩一(みやざわこういち)

 

被害者支援都民センターが発足して半年以上が経過した。その間、限られた予算の制約を受けながらも、関係者の努力によって、被害者支援活動が次第に充実しているのは、ご同慶の至りである。もとより、当センターの活動を支えて下さっている東京都庁をはじめとする各方面のご協力なしには、当センターに寄せられた期待に応えるだけの成果を上げることは不可能であった。ご理解とご協力に対し、心から感謝申し上げる次第である。

ここ数年来、犯罪被害者に向けられた社会各方面の関心が高まってきたことは心強い限りであり、昨年から今年にかけて、次々と「被害者の保護」「被害者の法的地位」を正面から認める法律が成立し、被害者支援の法的環境の整備が整ってきたことは、極めて喜ばしい。欧米諸国と比べて、二十年〜三十年の遅れが指摘されていたところであったが、少なくとも制度面を見れば、その差は次第に縮まっている。だが、「被害者支援」の現状はと言えば、全国五十の都道府県のうち、組織化されたのはまだ十七の地域に過ぎず、半数にも満たない。この現実を見ると、「途半(みちなか)ば」の感を禁じ得ない。さらに「都民センター」が、人口千二百万人の大都市東京に、わずか一カ所であるという現実も寂しい限りである。

比較のため、若干の知見を示したい。チューリッヒ市で経験したことだが、人口百万人の同市内に、大小さまざまの十カ所を越える相談所が設置され、児童・少年、成人女性、罪種別と、それぞれの被害者支援体制が確立し、機能していた。またドイツを例にとると、千二百人ものボランティアを動員し、全国規模で支援活動を展開している「白い環」の被害者援助組織のほかに、州司法省の予算で設立・運営され、心理学・心理療法の専門的知識・経験をもつスタッフを擁する「被害者・証人支援センター」が多くの州で併存し、犯罪被害者の多様なニーズに応えている。前者は、社会庁の「被害者補償法」に対応する被害者支援、後者は、司法省の「犯罪被害者対策」を内容としているが、いずれも犯罪被害者の実際のニーズに応えるべく相互補完的に活動している。たとえ素人のボランティアの支援活動であっても、被害直後、精神的に動転し、救いを求めている被害者にとっては、その救いの手は「地獄で出会った仏」の手のように感ずるものであり、被害後に残った心の傷を癒すためには、「専門家によるカウンセリング」をじっくり受けて立ち直る必要がある。アメリカやイギリスでは、さらに広範な被害者支援が組織化され、多くの地方で、それぞれに充実した支援プログラムが用意されていると聞く。

このような諸外国での動向を見れば、我が国では今後、一九九八年五月に組織化された「全国被害者支援ネットワーク」を中心として、いまだ被害者支援の組織が出来ていないところに働きかけ、全国的な展開を図らねばならない。そのためには、組織作りと併せて、相談業務を実際に担当するボランティアに対する研修を計画的に実施する必要もある。「都民センター」の将来の役割として、こうした面での寄与が求められるであろう。

犯罪、特に少年非行の現実を直視すると、昨今のわが国は、大都市はもちろん、中小都市でも、住民間の連帯・人的な絆が希薄化し、非公的な社会統制が働きにくい「都市化した社会」が連なった「列島」になった観がある。このまま推移し、犯罪の被害者が、今後ますます増え、被害が他人事ではないと感じられるような社会に堕するのであろうか。それとも、被害者支援のために多数の市民が立ち上がり、「社会的な復原力」を回復させる原動力になるのか。まさに正念場に差しかかっていると言えよう。

 

 

 

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